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量子コンピューティング技術の医学応用の可能性

憲明 八幡, 慶 間島

Published Jul 1, 2024• 0 citations
OpenAlex

Abstract

量子コンピュータの開発が急速に進展している昨今、その本格的な普及が見込まれる2030年代以降のわれわれの生活や社会のあり方についての議論も活発化している。本稿では、量子コンピュータの理解に必要な基本事項に触れ、技術開発の現状や克服すべき課題について述べたうえで、今後の医学分野への応用可能性について論じる。ゲート式量子コンピュータは、その汎用性のためにさまざまな場面での活用が期待されているが、現段階では誤り訂正機能を持つ論理量子ビットを多数搭載するための技術開発が課題で、具体的な問題解決場面で活用されるには至っていない。一方、組合せ最適化問題の解決に特化した量子アニーリングマシンや、古典コンピュータ上で量子コンピュータに迫る効率で線形演算の近似解を得る量子インスパイアドアルゴリズムについては、実際の問題への適用が可能な段階に至っている。今後、こうした種々の量子コンピューティング技術をその発展に応じて段階的に組み合わせることで、たとえば効率的な創薬の支援、人工知能や機械学習を介した医療画像解析の高度化、そして患者データの高度なリアルタイム処理に基づく治療や支援の展開など、具体的な医学応用が視界に入ってくるものと思われる。

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量子コンピュータの基礎と物理との接点(第62回物性若手夏の学校 講義)

啓祐 藤井

にある物理に関する新たな知見を得るための強力な実験的手段となるであろう.また,量子物質設計や量子化学 計算などのように潜在的に「量子」の言語で定義された問題を解く上で量子コンピュータが役に立つことは言うま でもなく,今後,機械学習などの一見量子とは関係のない分野においても量子コンピュータがその実現の困難性を 引いても余りあるような貢献をする可能性もある. 一方,情報や計算といった概念は,通常の物理系学部の学生はあまり触れてこなかったと思う.よって,一通り 慣れてしまうまでは,議論の展開が殺伐としていて(それが良いところでもあるのだが)物理とのつながりが感 じにくく思われるかもしれない.最近では,小さいサイズではあるが万能性がある真の量子コンピュータ(IBM quantum experience)がウェブ上で公開されており,誰でも(今のところ)無料で利用することができる.この テキストに書かれていることを自分でサーバー上の量子コンピュータを使って確認してみるのもよいであろう. 今回は,量子デバイスの物理には踏み込む余裕はないが,量子コンピュータの理論は,それを支える量子デバイ スの物理や実験技術の蓄積に支えられている(従来のコンピュータが固体物理学や半導体技術の蓄積によって支 えられているように) .量子コンピュータを実現するためには,超伝導量子ビットに代表されるような量子情報デ バイスの物理をよりよく理解し,それを制御するための技術も重要な鍵となってくる.実験に興味がある意欲的 な学生は,量子情報デバイスの物理にも挑戦してもらいたい. 《講義ノート》 物性研究・電子版 Vol. 6, No. 4, 064217(2017年11月号) * 1 内積とは,線型空間の任意の2つの元 |ψ⟩ と |ϕ⟩ と複素数 (|ψ⟩, |ϕ⟩) ∈ C に対応させたものである. * 2 完備性とは,コーシー列 ∥|ψ⟩n -|ϕ⟩m∥ → 0 が空間の元 |ψ⟩ に収束する ∥|ψ⟩n -

•Nov 1, 2017•0 citations

情報処理の量子力学的制約((6)数学的及び数理科学的考察,京大基研短期研究会「量子カオス : 理論と実験の現状」,研究会報告)

Masanao Ozawa

量子コンピュータが実現すると今日の計算機よりも指数関数的に早い計算が可能であると考えられていて,その実現にどのような物理的困難があるのかを明らかにすることは興味ある問題である.量子誤り訂正符号理論における近年の成果により,十分に高い精度の基本論理素子が実現可能なら,デコーヒーレンスによる困難をまぬがれることが示されたが,基本論理素子の実現に関する一般論はまだ得られていない.本稿では,基本論理素子の実現に関する物理的制約を保存則や不確定性関係から一般的に導く新しい理論的方法について解説する.

•Apr 20, 2003•0 citations

スタッフ配置制約を含む物流最適化問題に対する量子アニーリングを用いた実装

Akiyoshi Wakatani

ムーアの法則の限界が指摘される中,次世代の計算方式として量子計算が注目されている.その関連手法である量子アニーリングは,擬似的な実現方式を含め,数理最適化分野において実用レベルのアプリケーションが利用されている.一方,引越し業界をはじめとする物流業界でも効率化が急務となっており,移動コストおよび人件費コストの最小化は重要な課題である.このような課題に対し,量子アニーリングを用いた最適化は有効な解決策となり得る.本稿では,FixstarsAmplifyAnnealingEngineを用いて物流最適化問題を実装し,スタッフ間の相性や教育関係を考慮した配置制約に着目する.これらの制約条件の増加が最適解探索の実行時間に与える影響を評価するとともに,実行時間削減のための効率化手法を検討する.その結果,決定変数の扱いを工夫することで,追加の制約を導入することなく同等の最適化が可能となり,求解時間を短縮できることを確認した.

•Sep 11, 2026•0 citations

量子コンピューティング技術の生命科学研究への応用可能性:現状と将来展望

八幡 憲明

近年、量子コンピューティング関連技術の研究開発が急ピッチで進められている。本講演ではその現状を概観すると共に、これを将来の生命科学研究、ひいては精神医学研究において活用する見通しについて検討を行う。まず、量子コンピュータで用いられる計算アルゴリズムをベースとして、内積計算や固有値分解などの基本的な線形代数演算、ないし主成分分析・正準相関分析を、古典コンピュータにおいても高速近似する量子インスパイアドアルゴリズム(量子着想アルゴリズム)を紹介する。通常手法による主成分分析・正準相関分析では、取り扱うデータの次元数Dの3乗に比例する計算時間を要するが、量子インスパイアドアルゴリズムを用いると計算時間が対数(log D)程度まで低減できる。従って、これまでは実現困難だった超高次元データの要約や特徴抽出に活用できる可能性が示されている。次に、量子コンピュータの開発状況と今後の活用が期待される分野を概観する。量子コンピュータはゲート方式とアニーリング方式に大別される。ゲート方式の方が高い汎用性が期待されるが、現段階で実現されているビット数は限定的であり、これを利用した生命科学研究は本格化するに至っていない。将来的に量子化学や創薬分野で見込まれている活用方法についてまとめる。一方、アニーリング方式の量子コンピュータや、この動作を古典コンピュータ上で模倣するイジングマシンについては実装化が進んでおり、有償での一般利用が可能となっている。その設計上の制約から適用できる問題は限定的であるものの、本講演では幾つかの実施例を、生命科学分野の研究にも応用可能と思われるものを織り交ぜつつ紹介する。

•Nov 6, 2023•0 citations

双極子スピン系の長距離相互作用と相転移:周期境界条件なしの場合

米谷 佳晃

長距離相互作用系のシミュレーションで有限距離のカットオフ計算を行うと、様々なア ーティファクトが生じることが知られている。特に問題となるは、カットオフ距離を長くしても計算結果が改善されず、逆に悪化することである。例えば、水の分子動力学シミュレーションでは、層状の配向構造へ転移することが知られている。同様の現象は、双極子液体や双極子スピン系でも確認されてきた。しかし、現象の起源については分かっていないことが多い。我々は、層状構造が純粋にカットオフによって生じる安定構造と考えてきた。一方、van der SpoelとMaaren は、カットオフだけでなく周期境界条件を適用したことで、層状構造が生じるという見解を示していた。本研究では、このような見解の不一致を検証するために、周期境界条件をつけずにカッ トオフ計算を行い、層状構造が形成されるかどうかを調べた。

•Sep 19, 2024•0 citations

最先端の研究開発 量子科学技術研究開発機構

Ryuji Igarashi

量研では,新しい学術領域「量子生命科学」の確立を目指した活動を,国内外の研究者と共に精力的に進めている。量子生命科学とは,最先端の量子技術と量子科学の知見を総合的に利用し,従来不可能であった極微の空間・時間スケールあるいは超高感度での生体内部の観測や生体分子の計測,生命機能のモデリングなどを実現することにより,量子論・量子力学を基盤とした視点から生命全般の根本原理を明らかにすることを目標とし,その原理の産業応用も視野に入れた分野である。本稿では,平成31年4月に量研内に発足した「量子生命科学領域」における研究のアプローチを紹介する。

•Jun 17, 2024•0 citations
量子コンピュータの開発が急速に進展している昨今、その本格的な普及が見込まれる2030年代以降のわれわれの生活や社会のあり方についての議論も活発化している。本稿では、量子コンピュータの理解に必要な基本事項に触れ、技術開発の現状や克服すべき課題について述べたうえで、今後の医学分野への応用可能性について論じる。ゲート式量子コンピュータは、その汎用性のためにさまざまな場面での活用が期待されているが、現段階では誤り訂正機能を持つ論理量子ビットを多数搭載するための技術開発が課題で、具体的な問題解決場面で活用されるには至っていない。一方、組合せ最適化問題の解決に特化した量子アニーリングマシンや、古典コンピュータ上で量子コンピュータに迫る効率で線形演算の近似解を得る量子インスパイアドアルゴリズムについては、実際の問題への適用が可能な段階に至っている。今後、こうした種々の量子コンピューティング技術をその発展に応じて段階的に組み合わせることで、たとえば効率的な創薬の支援、人工知能や機械学習を介した医療画像解析の高度化、そして患者データの高度なリアルタイム処理に基づく治療や支援の展開など、具体的な医学応用が視界に入ってくるものと思われる。
にある物理に関する新たな知見を得るための強力な実験的手段となるであろう.また,量子物質設計や量子化学 計算などのように潜在的に「量子」の言語で定義された問題を解く上で量子コンピュータが役に立つことは言うま でもなく,今後,機械学習などの一見量子とは関係のない分野においても量子コンピュータがその実現の困難性を 引いても余りあるような貢献をする可能性もある. 一方,情報や計算といった概念は,通常の物理系学部の学生はあまり触れてこなかったと思う.よって,一通り 慣れてしまうまでは,議論の展開が殺伐としていて(それが良いところでもあるのだが)物理とのつながりが感 じにくく思われるかもしれない.最近では,小さいサイズではあるが万能性がある真の量子コンピュータ(IBM quantum experience)がウェブ上で公開されており,誰でも(今のところ)無料で利用することができる.この テキストに書かれていることを自分でサーバー上の量子コンピュータを使って確認してみるのもよいであろう. 今回は,量子デバイスの物理には踏み込む余裕はないが,量子コンピュータの理論は,それを支える量子デバイ スの物理や実験技術の蓄積に支えられている(従来のコンピュータが固体物理学や半導体技術の蓄積によって支 えられているように) .量子コンピュータを実現するためには,超伝導量子ビットに代表されるような量子情報デ バイスの物理をよりよく理解し,それを制御するための技術も重要な鍵となってくる.実験に興味がある意欲的 な学生は,量子情報デバイスの物理にも挑戦してもらいたい. 《講義ノート》 物性研究・電子版 Vol. 6, No. 4, 064217(2017年11月号) * 1 内積とは,線型空間の任意の2つの元 |ψ⟩ と |ϕ⟩ と複素数 (|ψ⟩, |ϕ⟩) ∈ C に対応させたものである. * 2 完備性とは,コーシー列 ∥|ψ⟩n -|ϕ⟩m∥ → 0 が空間の元 |ψ⟩ に収束する ∥|ψ⟩n -
量子コンピュータが実現すると今日の計算機よりも指数関数的に早い計算が可能であると考えられていて,その実現にどのような物理的困難があるのかを明らかにすることは興味ある問題である.量子誤り訂正符号理論における近年の成果により,十分に高い精度の基本論理素子が実現可能なら,デコーヒーレンスによる困難をまぬがれることが示されたが,基本論理素子の実現に関する一般論はまだ得られていない.本稿では,基本論理素子の実現に関する物理的制約を保存則や不確定性関係から一般的に導く新しい理論的方法について解説する.
ムーアの法則の限界が指摘される中,次世代の計算方式として量子計算が注目されている.その関連手法である量子アニーリングは,擬似的な実現方式を含め,数理最適化分野において実用レベルのアプリケーションが利用されている.一方,引越し業界をはじめとする物流業界でも効率化が急務となっており,移動コストおよび人件費コストの最小化は重要な課題である.このような課題に対し,量子アニーリングを用いた最適化は有効な解決策となり得る.本稿では,FixstarsAmplifyAnnealingEngineを用いて物流最適化問題を実装し,スタッフ間の相性や教育関係を考慮した配置制約に着目する.これらの制約条件の増加が最適解探索の実行時間に与える影響を評価するとともに,実行時間削減のための効率化手法を検討する.その結果,決定変数の扱いを工夫することで,追加の制約を導入することなく同等の最適化が可能となり,求解時間を短縮できることを確認した.
近年、量子コンピューティング関連技術の研究開発が急ピッチで進められている。本講演ではその現状を概観すると共に、これを将来の生命科学研究、ひいては精神医学研究において活用する見通しについて検討を行う。まず、量子コンピュータで用いられる計算アルゴリズムをベースとして、内積計算や固有値分解などの基本的な線形代数演算、ないし主成分分析・正準相関分析を、古典コンピュータにおいても高速近似する量子インスパイアドアルゴリズム(量子着想アルゴリズム)を紹介する。通常手法による主成分分析・正準相関分析では、取り扱うデータの次元数Dの3乗に比例する計算時間を要するが、量子インスパイアドアルゴリズムを用いると計算時間が対数(log D)程度まで低減できる。従って、これまでは実現困難だった超高次元データの要約や特徴抽出に活用できる可能性が示されている。次に、量子コンピュータの開発状況と今後の活用が期待される分野を概観する。量子コンピュータはゲート方式とアニーリング方式に大別される。ゲート方式の方が高い汎用性が期待されるが、現段階で実現されているビット数は限定的であり、これを利用した生命科学研究は本格化するに至っていない。将来的に量子化学や創薬分野で見込まれている活用方法についてまとめる。一方、アニーリング方式の量子コンピュータや、この動作を古典コンピュータ上で模倣するイジングマシンについては実装化が進んでおり、有償での一般利用が可能となっている。その設計上の制約から適用できる問題は限定的であるものの、本講演では幾つかの実施例を、生命科学分野の研究にも応用可能と思われるものを織り交ぜつつ紹介する。
長距離相互作用系のシミュレーションで有限距離のカットオフ計算を行うと、様々なア ーティファクトが生じることが知られている。特に問題となるは、カットオフ距離を長くしても計算結果が改善されず、逆に悪化することである。例えば、水の分子動力学シミュレーションでは、層状の配向構造へ転移することが知られている。同様の現象は、双極子液体や双極子スピン系でも確認されてきた。しかし、現象の起源については分かっていないことが多い。我々は、層状構造が純粋にカットオフによって生じる安定構造と考えてきた。一方、van der SpoelとMaaren は、カットオフだけでなく周期境界条件を適用したことで、層状構造が生じるという見解を示していた。本研究では、このような見解の不一致を検証するために、周期境界条件をつけずにカッ トオフ計算を行い、層状構造が形成されるかどうかを調べた。
量研では,新しい学術領域「量子生命科学」の確立を目指した活動を,国内外の研究者と共に精力的に進めている。量子生命科学とは,最先端の量子技術と量子科学の知見を総合的に利用し,従来不可能であった極微の空間・時間スケールあるいは超高感度での生体内部の観測や生体分子の計測,生命機能のモデリングなどを実現することにより,量子論・量子力学を基盤とした視点から生命全般の根本原理を明らかにすることを目標とし,その原理の産業応用も視野に入れた分野である。本稿では,平成31年4月に量研内に発足した「量子生命科学領域」における研究のアプローチを紹介する。