量子コンピュータの基礎と物理との接点(第62回物性若手夏の学校 講義)
啓祐 藤井
Abstract
にある物理に関する新たな知見を得るための強力な実験的手段となるであろう.また,量子物質設計や量子化学 計算などのように潜在的に「量子」の言語で定義された問題を解く上で量子コンピュータが役に立つことは言うま でもなく,今後,機械学習などの一見量子とは関係のない分野においても量子コンピュータがその実現の困難性を 引いても余りあるような貢献をする可能性もある. 一方,情報や計算といった概念は,通常の物理系学部の学生はあまり触れてこなかったと思う.よって,一通り 慣れてしまうまでは,議論の展開が殺伐としていて(それが良いところでもあるのだが)物理とのつながりが感 じにくく思われるかもしれない.最近では,小さいサイズではあるが万能性がある真の量子コンピュータ(IBM quantum experience)がウェブ上で公開されており,誰でも(今のところ)無料で利用することができる.この テキストに書かれていることを自分でサーバー上の量子コンピュータを使って確認してみるのもよいであろう. 今回は,量子デバイスの物理には踏み込む余裕はないが,量子コンピュータの理論は,それを支える量子デバイ スの物理や実験技術の蓄積に支えられている(従来のコンピュータが固体物理学や半導体技術の蓄積によって支 えられているように) .量子コンピュータを実現するためには,超伝導量子ビットに代表されるような量子情報デ バイスの物理をよりよく理解し,それを制御するための技術も重要な鍵となってくる.実験に興味がある意欲的 な学生は,量子情報デバイスの物理にも挑戦してもらいたい. 《講義ノート》 物性研究・電子版 Vol. 6, No. 4, 064217(2017年11月号) * 1 内積とは,線型空間の任意の2つの元 |ψ⟩ と |ϕ⟩ と複素数 (|ψ⟩, |ϕ⟩) ∈ C に対応させたものである. * 2 完備性とは,コーシー列 ∥|ψ⟩n -|ϕ⟩m∥ → 0 が空間の元 |ψ⟩ に収束する ∥|ψ⟩n -