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Bussei Kenkyu

古典力学的手法による原子・分子の探求(修士論文(1993年度))

知幸 山本

Published Jul 20, 1994• 0 citations
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Abstract

この研究で扱うような原子・分子の古典モデルの歴史は1920年代にまで遡る。その発端は、Bohrの水素原子のモデルでは成立した量子古典対応がヘリウムでは成立しないことだった。量子論の前夜の事件であるが、それは今なお未解決の部分を多く含む問題なのである。量子と古典の間の深い溝は、その両者が異質なものであるということである。しかし、同じ自然に対する複数の記述方法である以上、それらの適用範囲が広がるにつれ交錯する分野が現われるのは必然である。その領域においては、何らかの橋渡しが出来ていなければならない。だがそれはそれぞれに関する深い知識がなければ構築できない類のものである。量子カオスという研究分野はおもにその橋渡しを追求するが、この研究はむしろ古典系側の基盤を探るものである。古典系に話を限っても、ヘリウム原子ですら三体問題であり、カオス的な性質を持つハミルトン系(保存力学系)である。運動を決定する積分が足りないために、系の運動を統一的に記述することは未だなされていない。ハミルトン系の相空間の構造は非常に複雑であるので、高い解像度で観察する必要がある。つまり、これらの系における困難とは、広大な初期条件空間をくまなく探索しなければならないということなのである。そうしてはじめて量子系との対応を議論できるようになる。そのような作業の結果としてこの研究で見出されたことは、1)カオス的な軌道は全て原子から無限遠へ飛び出す(イオン化を起こす)、2)相空間には非自明なトーラスが埋め込まれている、3)カオスとトーラスの織りなす非常に複雑な構造が見出されたことである。また、それらを応用して原子や分子の古典力学的な表現を探求している。原子や分子のモデルを、クーロン力によって相互作用する独立した粒子のシステムとして扱う場合、ほとんど単純化をせずに相空間を広汎に調べた研究というものはあまり例がない。そして、その結果として幾つか重要と思われる知見が得られている。単純化したモデルにおいて量子古典対応を研究した例は非常に多いが、それでだけでは量子古典対応などの問題の未解決な点をあらわにすることは出来ないのではないかと考えられる。なお、この論文内での約束事は次の通りである。1)軌道の初期条件で、とくに記していない変数はその配置で決まっているか、そうでなければ0である。2)先に刊行されている論文[1]との用語の統一を図るため、トーラスの名称などはとくに英語で記した。3)物性研究版では、本文と図の一部が省略されている。

Related papers

量子統計力学の可解模型 : 素励起、臨界現象、非平衡ダイナミクス (第59回物性若手夏の学校 : 講義)

哲生 出口

最近、孤立した量子多体系の非平衡ダイナミクスが活発に研究されている。特に、外部変数を急変化させた後の量子系の時間発展を、量子クエンチ (quantumquench) とよぶ。70年代に McCoy 達により可解系で量子クエンチが議論されたが、最近冷却原子系の実験等に刺激され、再び注目されている。孤立量子系のダイナミクスは、量子統計力学の基礎の視点からも興味深い。量子多体系の純粋状態を任意に与えると、ほとんどの場合、その状態に関する物理量の期待値は、平衡値に非常に近い値に近づくことが、最近再発見された。量子状態の典型性 (typicality) の視点である。さらに、与えられた純粋状態のユニタリな時間発展の中で、局所演算子の期待値は平衡状態のアンサンブル平均値に収束する、と予想されている。このときエントロピーは全く変化しないが、しかし、緩和のような振る舞いが見られる。3日間の講義では最初に、可積分量子系の例を紹介し、デルタ関数型ポテンシャルで相互作用する1次元ボース気体に対してベーテ仮設の方法を説明する。次に、ホール励起など典型的な素励起を詳しく解説する。さらに、低励起スペクトルでの系の振る舞いと CFT との対応の概略をスケッチする。量子多体問題の様々な手法が可積分量子系で具体的に実現される点が教育的であると思われる。さらに、代数的べ一テ仮設を説明し、スラブノブ公式など演算子の期待値や形状因子を求めるに役立つ定理を解説する。そして、1次元ボース気体やXXX鎖等での最近の結果を紹介する。

•Feb 1, 2015•0 citations

多次元振動分光スペクトルによる散逸性量子トンネル過程の理論的解析(修士論文(2004年度))

Akihito Ishizaki

散逸の影響を受ける量子トンネル過程は、物理学から化学そして生命現象に至るまで多くの分野において重要な役割を果たしており、これまでにも精力的に調べられてきた。しかし、その理論的取扱いや実験的観測の難しさが、多くの興味ある問題の解決を困難なものにしている。本研究では、有色ノイズを生む調和振動子熱浴と結合した1次元対称二連井戸ポテンシァル系を考察する。この系は、分光学的にも興味が持たれている凝縮相中のプロトン移動異性化反応を記述するモデルである。系と熱浴の相互作用としては、散逸(縦緩和と横緩和)を引き起こす従来の線形-線形結合だけでなく、周波数揺動による純粋位相緩和を誘起する非線形-線形結合をも考慮する。このような系に対して、久保の確率過程的Liouville方程式を拡張したGauss-Markov量子Fokker-Planck方程式を解き、双極子μ(Q^^^)の四体相関関数で定義される二次元赤外シグナルを計算した。その結果、入射レーザーパルスの位相整合条件で決まる特定の方向で観測される二次元赤外シグナルの非対角ピークから、トンネル分裂準位間の熱的励起・緩和過程が分離されて観測できることが示される。トンネル分裂準位という真に量子的な系に対する凝縮相の散逸効果を視覚的に捕らえることができるのである。また、従来の実験技術では測定が困難であった凝縮相中のプロトン移動反応の速度定数が、二次元赤外スペクトルからは簡単に評価できる可能性が示される。多次元振動分光法は、凝縮相化学反応の速度定数を測定する新しい技術であると言えよう。

Bussei Kenkyu•Nov 20, 2005•0 citations

量子ウォークの弱収束定理とスペクトル・散乱理論 (スペクトル・散乱理論とその周辺)

章斗 鈴木

この稿では,スペクトル散乱理論の視点に立って,量子ウォークにおける弱収束定理 の概説を試みる.量子ウォークには,大きく分けて,連続時間のものと離散時間のものの2種類がある.連続時間の場合は,グラフ上のラプラシアンをハミルトニアンにもつ量子力学系に他ならず,離散シュレディンガー作用素の研究の射程に入る [6].離散時間の場 合は,時間発展がハミルトニアンから定まらないので,それ特有の扱いが必要になる.この稿では,離散時間量子ウォークに焦点を絞り,単にそれを量子ウォークという.量子ウオークの起源については諸説あるが,古くは1960年代のFeynmanとHibbsに よる経路積分の教科書 [10] にその原型がみらる.80年代には,Gudderの著書 [15] の中 で,Dirac 方程式の離散版として登場する.その後,2000年に前後して,量子アルゴリズムへの応用 [14, 1, 32] の道が開かれると,量子ウォークの研究はいよいよ盛んになる.2002年,今野 [20] が量子ウォークに対する弱収束定理をはじめて証明すると,多くの数 学者が研究に加わるようになる.量子ウォークの理論やアルゴリズムへの応用に関する比較的最近までの結果については,[22, 27, 33] などが参考になる.量子ウォークが実験室レベルで実現できていることは,特筆すべき点である.しかも,さまざまな実現方法があ り,それらをまとめたものが,既に成書として出版されている [24].以下,本稿のテーマである弱収束定理を少し詳しくみていこう.量子ウォーカーの時間発展は,状態のヒルベルト空間 \ma t hc a l { H} 上のユニタリ作用素 U を用いて表される.量子ウォー2017年 86-108 でいえば \ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w\ i n f t y } \ ma t h r m{ E} ( e {i $ \ x i $ X_ { \ ma t h r m{ t } } / t } ) = \ ma t h r m{ E} ( e {i $ \ x i $ V} ) , $ \ x i $ \ i n \ ma t h b b { R} となる.これが,ランダムウォークにおけるdeMoivre-Laplace の定理,または中心極限 定理の量子版とみなせることを2節で説明する.今野が最初に示した弱収束定理 [20, 21] では,空間一様なコインをもつ1次元量子ウオー クを考え,量子ウォーカーは初期時刻で原点にのみ存在すると仮定された.証明は,組合せ論的手法を用いて行われた.この場合は,状態のヒルベルト空間は\mat hcal { H} =\el l ^{ 2} ( \mat hbb{ Z} ; \mat hbb{ C} ^{ 2} ) で与 えられ,時間発展のユニタリ作用素は U=SC と表せる.ここで,S はシフト作用素, C はコイン作用素と呼ばれるユニタリ作用素であ る.一般に , コイン作用素は,ユニタリ行列値の関数 \mathbb{Z}\ni x\mapsto C(x)\in U(2) による掛け 算作用素である.\ri ght arrowt)/t} の t\rightarrow\infty の極限で得られる ユニタリ群の生成子 \hat { v} の分布を,フーリエ表示で求めた.\hat { v} は速度作用素とか漸近速度作 用素と呼ばれる.このとき,X_{t}/t の弱極限分布は,漸近速度 \hat { v} のスペクトル測度をもち いて, \Ver t E_{ \hat { v} } ( \cdot ) $\Psi $_{ 0} \Ver t ^{ 2} と表せる.彼らが用いた手法は,GJS法と呼ばれ,今野の定理の証明 の簡略化に貢献した.また,今野の定理[20, 21] における初期状態に関する制限も除か れた.GJS 法については,本稿でも重要な地位を占めるので,3節でやや詳しく触れる.GJS 法の肝は,時間スケールされた位置作用素 \hat{x}(t)/t は, t\rightarrow\infty のとき,フーリエ変 換によって,漸近速度のに対角化される ということである.コインが空間に依存する場合は,並進対称性が失われるので,GJS 法はうまく機能しな い.原点でのみでコインが異なる one defectモデルや,原点を境に右と左でコインが異 なる2相系の量子ウォークでは,母関数法を用いた弱収束定理の証明法が開発されている [23, 7, 8].より一般の空間依存があるコインに対しては,スペクトル散乱理論の考え方 が有効である [31].そのために,あるユニタリ行列 C_{\infty}\in U(2) が存在して \di spl ayst yl e \l i m_{ x\r i ght ar r ow\i nf t y} C( x) =C_{ \i nf t y} , x\i n \mat hbb{ Z} (1.2) となる場合を考える.先に紹介したone defectモデルや,有限の点でのみコインが異な る量子ウォークは,当然この範躊に入る.量子ウオークにおけるスペクトル・散乱理論の有効性を概説するのが,本稿の主目的である.射影で, $\Pi $_ { \ma t hr m{ a } \ma t hr m{ c } } ( U) は, U の絶対連続部分空間 \ ma t h c a l { H} _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U) への射影である.量子ウオークの弱収束定理がその古典版である中心極限定理と違うのは,線形的広がり と局在化といわれるの2つの性質が表れる点にある.弱収束定理により, X_{t}/t が V に法 則収束することがいえると, t\rightarrow\infty で,形式的に X_{t}\sim tV と表せる.このことを,線形的広がりという.定義によって,V の分布は, t\rightarrow\infty にお ける量子ウォーカーの速度分布と考えるのが自然である.従って,量子ウォークの弱収束 定理は,量子ウォークの時間漸近的な速度分布の存在定理といえる.一方,局在化とは,V の分布が原点に台をもつ Dirac 測度をもつことをいう.すなわち,P(V=0)>0 である.つまり, t\rightarrow\infty では,速度ゼロになる確率 P(V=0) は,ゼロでない 線形的広がりには,絶対連続部分 e^{ i $\xi $\hat { x} ( t ) /t } $\Pi $_{ \mat hr m{ a} \mat hr m{ c} } ( U) が寄与する.条件(1.3) の下では,加 藤Rosenblum の定理 [28, Theorem XI.8] の離散版 [18, 19, 31] を考えると,ユニタリ作 用素 U=SC と U_{\infty}=SC_{\infty} に対する波動作用素s-\ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w\ i n f t y } U{-t } U_ { \ i n f t y } {t } $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U_ { \ i n f t y } ) , s-\ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w \ i n f t y } U _ { \ i n f t y } {-t } U {t } $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U ) (1.4) が存在する.波動作用素に対する一般論によって,(1.4) の最初の極限を W_{+} とおくと, 2番目の極限は W_{+}^{* } に等しい.また,W_{+} は \ ma t h c a l { H} _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U_ { \ i nf t y } ) から \ ma t h c a l { H} _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U) へのユニタリ作用素 になる.以上のことから, t\rightarrow\infty のとき,s-\ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w\ i n f t y } e {i $ \ x i $ \ h a t { x } ( t ) / t } = $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ p } } ( U) + e {i $ \ x i $ \ h a t { v } } $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U) .$\xi $\i n \mat hbb{ R} が成り立つ.これを用いると, X_{t}/t の弱極限分布が得られる.$ \ d e l t a $ _ { 0 } は原点における Dirac 測度とし, E_{ \hat { v} } を \hat { v} のスペクトル測度とする.Corollary I.2.X_{t}/t の分布は, t\rightarrow\infty のとき,確率分布 $\mu$=\Ver t \mat hr m{ I } \mat hr m{ I } _ { \mat hr m{ p} } ( U) $\Ps i $_ { 0} \Ver t {2} $\del t a$_ { 0} +\Ver t E_ { \hat { v} } ( \cdot ) $\Pi $_ { \mat hr m{ a} \mat hr m{ c} } ( U) $\Ps i $_ { 0} \Ver t {2} (1.5) に弱収束する. 4節では,仮定 (1.3) の下で,量子ウォークのスペクトル・散乱理論を説明し,Theorem1.1を証明する.また,Theorem1.1の系として,弱収束定理も証明する.5節では,分布のより具体的な形を計算する.Corollary 1.2により, X_{t}/t は(1.5) を 分布にもつ確率変数 V に法則収束するので P(V=0)=\Vert$\Pi$_{\mathrm{p}}(U)$\Psi$_{0}\Vert^{2} (1.6)

数理解析研究所講究録•Apr 1, 2017•0 citations

量子力学における観測問題の現状(修士論文(1991年度))

功史 小出

量子力学はその多方面への応用における成功にも拘らず、その原理的側面としての観測問題は現在にいたるまで、未解決な部分として残っている。今までに数多くの観測理論が発表されているが、そのどれもがコンセンサスを得られているとは思えない。本論文第二章では、現在までに行われた実験、特に隠れた変数の存在を否定したアスペ達(1982)によるベルの不等式の検証実験について述べ、測定に伴う偶然性は自然が本来持っている本質的偶然性であることを示す。そのため観測過程は個別系でなく統計集団(statistical ensemble)について考察せざるを得ないのである(統計的解釈statistical interpretation)。観測理論には、量子力学の一般定理と相入れないものや、量子力学以外の考えを導入するものがあるが、それ以前に量子力学の枠内で測定過程をどこまで記述できるのかを検討することが先決である。本論文第三章では、部分系としての測定対象系・測定装置系・観測者系の密度行列の時間変化を調べることにより、測定が対象系と装置系の相互作用後に終了することを示した最近の理論を紹介する。これに基づいて行ったオリジナルな研究を第四章で述べる。二重スリットによる干渉縞に対する経路観測の影響を、検出器の反応によって分離することの出来る3つの部分集団のそれぞれについて調べ、結果を物理的に考察した。また、ニールスボーアの粒子像と波動像の相補性を定量化して示すことに成功した。最後に、この思考実験は現実の実験で検証可能であることを強調したい。

•Jul 20, 1992•0 citations

量子統計力学的レーザー基礎方程式の導出とその物理的考察(修士論文(1982年度))

哲雄 冨永

物性研究•Oct 20, 1983•0 citations

有限時間間隔の場の理論 : 場の理論におけるシュレーディンガー描像の因果律について(基研長期研究計画「進化の力学への場の理論的アプローチ」報告,研究会報告)

Kazumasa Nomoto, R. Fukuda

場の理論における因果律の歴史は長く,色々な側面を持っている.特に,それは量子力学の非局所的な性質と深く関わっていて観測問題との関連でも興味深い.因果律の場の量子論的記述(微視的因果律)は,しばしばハイゼンベルグ描像で次の様に表現される1).[φ^<(H)>(x),φ^<(H)>(y)]=0 if (x-y)^2<0 x=(x^0,x),x^2≡x^μx_μ≡x_0^2-x^2 (1.1)ここで,φ(x)は場の演算子であり,それがボーズ場(フェルミオン場)ならば[,]は交換子(反交換子)である.つまり(1.1)は「互いに空間的な2点にある場の演算子は可換である」ということを表している.これは,自由な場のみでなく,局所的な相互作用が存在する場合にも成り立つ.また,このことは局所場の理論の最も本質的な要請のひとつにもなっている.量子力学では,可換な物理量は,互いに影響を及ぼさずに観測できるという原理が存在するので(1.1)は,空間的に離れた2点の観測は互いに影響を及ぼし合わないということを示している.つまり,いかなる場の擾乱(信号)も光速を超えて伝わらないということである.しかし,これは抽象的な演算子の関係であって,いかに信号が伝わるかなどということは判りにくい.そこで,別の描像-シュレーディンガー描像-で因果律がいかに表現されるか調べた.はじめに,初期状態の波動関数が時空の原点に局在したデルタ関数で表されるような一粒子の非相対論的・相対論的な量子拡散(quantum diffusion)について調べた.その結果,非相対論的には局在した次の瞬間には粒子は無限遠方まで場所に依らない確率で拡散してしまい,光速を超えて粒子が運動し得るということがわかる.しかし,非相対論では,光速を無限大と近似しているので当然の結果である.相対論的には,その状況はやや改善され,空間的である領域のうち十分遠方である位置に拡散する確率は殆どゼロになる.しかし,相対論にさえも光円錐の外側のコンプトン波長程度の領域には無視できない確率で粒子を見い出すことができることが,簡単な計算からわかる.したがって,この場合も因果律が破れているといえる.この原因については,現在検討中であるが,一つは初期にデルタ関数の波動関数を用意することが非局所的な操作であることに起因していると考えられる.この問題を避けるために,次に局所的な操作により場に擾乱を与え,それが時間とともに場の中をどのように伝わるかを調べた.先ず,自由な場において時空の原点に擾乱を与えるようなラグランジアンとして次のモデルを考えた.*_0=1/2(∂_μφ(x))(∂^μφ(x))-1/2m^2φ^2(x)+jδ^4(x)φ(x) (1.2)ここで,φ(x)はボーズ場(質量mのスカラーボゾン場)の変数である.時刻t<0で任意の初期状態を用意して(1.2)の系で時間発展させt>0での波動(汎)関数をΨ_F[φ]とする.そこで,終状態の空間的領域の密度行列ρ[φ_s,φ_s]を次の様に定義する.ρ[φ_s,φ_s]=∫[dφ_t]Ψ_F^*[φ]Ψ_F[φ]|_φ_t=φ_t [dφ_t]≡II 0|dφ(x) (1.3)φ_t: 時空の原点(擾乱が加わった点)に対して時間的な領域にある場の変数.φ_s: 時空の原点(擾乱が加わった点)に対して空間的な領域にある場の変数.このとき「ρ[φ_s,φ_s]は,Jに依らない」ということを示すことができる.このことは,場に擾乱が加わった点に対し,空間的な領域の状態はその影響を全く受けないということであり,完全に因果律を満していることがわかる.相互作用が存在しても,局所的であるならば同様のことを示すことができる.つまり,シュレーディンガー描像での因果律は「場の擾乱が加わった点に対して空間的な点における密度行列は場の擾乱の影響を受けない」と表現される.さらに,シュレーディンガー描像の因果律の表現からハイゼンベルグの因果律の表現を導くことができる.このことからシュレーディンガー描像の因果律の表現は,ハイゼンベルグ描像のそれと少なくとも等価,又はそれよりも広い概念を含んでいると考えられる.なお,本文中では自然単位系c=h=1を用いる.

•Aug 20, 1990•0 citations
この研究で扱うような原子・分子の古典モデルの歴史は1920年代にまで遡る。その発端は、Bohrの水素原子のモデルでは成立した量子古典対応がヘリウムでは成立しないことだった。量子論の前夜の事件であるが、それは今なお未解決の部分を多く含む問題なのである。量子と古典の間の深い溝は、その両者が異質なものであるということである。しかし、同じ自然に対する複数の記述方法である以上、それらの適用範囲が広がるにつれ交錯する分野が現われるのは必然である。その領域においては、何らかの橋渡しが出来ていなければならない。だがそれはそれぞれに関する深い知識がなければ構築できない類のものである。量子カオスという研究分野はおもにその橋渡しを追求するが、この研究はむしろ古典系側の基盤を探るものである。古典系に話を限っても、ヘリウム原子ですら三体問題であり、カオス的な性質を持つハミルトン系(保存力学系)である。運動を決定する積分が足りないために、系の運動を統一的に記述することは未だなされていない。ハミルトン系の相空間の構造は非常に複雑であるので、高い解像度で観察する必要がある。つまり、これらの系における困難とは、広大な初期条件空間をくまなく探索しなければならないということなのである。そうしてはじめて量子系との対応を議論できるようになる。そのような作業の結果としてこの研究で見出されたことは、1)カオス的な軌道は全て原子から無限遠へ飛び出す(イオン化を起こす)、2)相空間には非自明なトーラスが埋め込まれている、3)カオスとトーラスの織りなす非常に複雑な構造が見出されたことである。また、それらを応用して原子や分子の古典力学的な表現を探求している。原子や分子のモデルを、クーロン力によって相互作用する独立した粒子のシステムとして扱う場合、ほとんど単純化をせずに相空間を広汎に調べた研究というものはあまり例がない。そして、その結果として幾つか重要と思われる知見が得られている。単純化したモデルにおいて量子古典対応を研究した例は非常に多いが、それでだけでは量子古典対応などの問題の未解決な点をあらわにすることは出来ないのではないかと考えられる。なお、この論文内での約束事は次の通りである。1)軌道の初期条件で、とくに記していない変数はその配置で決まっているか、そうでなければ0である。2)先に刊行されている論文[1]との用語の統一を図るため、トーラスの名称などはとくに英語で記した。3)物性研究版では、本文と図の一部が省略されている。
最近、孤立した量子多体系の非平衡ダイナミクスが活発に研究されている。特に、外部変数を急変化させた後の量子系の時間発展を、量子クエンチ (quantumquench) とよぶ。70年代に McCoy 達により可解系で量子クエンチが議論されたが、最近冷却原子系の実験等に刺激され、再び注目されている。孤立量子系のダイナミクスは、量子統計力学の基礎の視点からも興味深い。量子多体系の純粋状態を任意に与えると、ほとんどの場合、その状態に関する物理量の期待値は、平衡値に非常に近い値に近づくことが、最近再発見された。量子状態の典型性 (typicality) の視点である。さらに、与えられた純粋状態のユニタリな時間発展の中で、局所演算子の期待値は平衡状態のアンサンブル平均値に収束する、と予想されている。このときエントロピーは全く変化しないが、しかし、緩和のような振る舞いが見られる。3日間の講義では最初に、可積分量子系の例を紹介し、デルタ関数型ポテンシャルで相互作用する1次元ボース気体に対してベーテ仮設の方法を説明する。次に、ホール励起など典型的な素励起を詳しく解説する。さらに、低励起スペクトルでの系の振る舞いと CFT との対応の概略をスケッチする。量子多体問題の様々な手法が可積分量子系で具体的に実現される点が教育的であると思われる。さらに、代数的べ一テ仮設を説明し、スラブノブ公式など演算子の期待値や形状因子を求めるに役立つ定理を解説する。そして、1次元ボース気体やXXX鎖等での最近の結果を紹介する。
散逸の影響を受ける量子トンネル過程は、物理学から化学そして生命現象に至るまで多くの分野において重要な役割を果たしており、これまでにも精力的に調べられてきた。しかし、その理論的取扱いや実験的観測の難しさが、多くの興味ある問題の解決を困難なものにしている。本研究では、有色ノイズを生む調和振動子熱浴と結合した1次元対称二連井戸ポテンシァル系を考察する。この系は、分光学的にも興味が持たれている凝縮相中のプロトン移動異性化反応を記述するモデルである。系と熱浴の相互作用としては、散逸(縦緩和と横緩和)を引き起こす従来の線形-線形結合だけでなく、周波数揺動による純粋位相緩和を誘起する非線形-線形結合をも考慮する。このような系に対して、久保の確率過程的Liouville方程式を拡張したGauss-Markov量子Fokker-Planck方程式を解き、双極子μ(Q^^^)の四体相関関数で定義される二次元赤外シグナルを計算した。その結果、入射レーザーパルスの位相整合条件で決まる特定の方向で観測される二次元赤外シグナルの非対角ピークから、トンネル分裂準位間の熱的励起・緩和過程が分離されて観測できることが示される。トンネル分裂準位という真に量子的な系に対する凝縮相の散逸効果を視覚的に捕らえることができるのである。また、従来の実験技術では測定が困難であった凝縮相中のプロトン移動反応の速度定数が、二次元赤外スペクトルからは簡単に評価できる可能性が示される。多次元振動分光法は、凝縮相化学反応の速度定数を測定する新しい技術であると言えよう。
この稿では,スペクトル散乱理論の視点に立って,量子ウォークにおける弱収束定理 の概説を試みる.量子ウォークには,大きく分けて,連続時間のものと離散時間のものの2種類がある.連続時間の場合は,グラフ上のラプラシアンをハミルトニアンにもつ量子力学系に他ならず,離散シュレディンガー作用素の研究の射程に入る [6].離散時間の場 合は,時間発展がハミルトニアンから定まらないので,それ特有の扱いが必要になる.この稿では,離散時間量子ウォークに焦点を絞り,単にそれを量子ウォークという.量子ウオークの起源については諸説あるが,古くは1960年代のFeynmanとHibbsに よる経路積分の教科書 [10] にその原型がみらる.80年代には,Gudderの著書 [15] の中 で,Dirac 方程式の離散版として登場する.その後,2000年に前後して,量子アルゴリズムへの応用 [14, 1, 32] の道が開かれると,量子ウォークの研究はいよいよ盛んになる.2002年,今野 [20] が量子ウォークに対する弱収束定理をはじめて証明すると,多くの数 学者が研究に加わるようになる.量子ウォークの理論やアルゴリズムへの応用に関する比較的最近までの結果については,[22, 27, 33] などが参考になる.量子ウォークが実験室レベルで実現できていることは,特筆すべき点である.しかも,さまざまな実現方法があ り,それらをまとめたものが,既に成書として出版されている [24].以下,本稿のテーマである弱収束定理を少し詳しくみていこう.量子ウォーカーの時間発展は,状態のヒルベルト空間 \ma t hc a l { H} 上のユニタリ作用素 U を用いて表される.量子ウォー2017年 86-108 でいえば \ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w\ i n f t y } \ ma t h r m{ E} ( e {i $ \ x i $ X_ { \ ma t h r m{ t } } / t } ) = \ ma t h r m{ E} ( e {i $ \ x i $ V} ) , $ \ x i $ \ i n \ ma t h b b { R} となる.これが,ランダムウォークにおけるdeMoivre-Laplace の定理,または中心極限 定理の量子版とみなせることを2節で説明する.今野が最初に示した弱収束定理 [20, 21] では,空間一様なコインをもつ1次元量子ウオー クを考え,量子ウォーカーは初期時刻で原点にのみ存在すると仮定された.証明は,組合せ論的手法を用いて行われた.この場合は,状態のヒルベルト空間は\mat hcal { H} =\el l ^{ 2} ( \mat hbb{ Z} ; \mat hbb{ C} ^{ 2} ) で与 えられ,時間発展のユニタリ作用素は U=SC と表せる.ここで,S はシフト作用素, C はコイン作用素と呼ばれるユニタリ作用素であ る.一般に , コイン作用素は,ユニタリ行列値の関数 \mathbb{Z}\ni x\mapsto C(x)\in U(2) による掛け 算作用素である.\ri ght arrowt)/t} の t\rightarrow\infty の極限で得られる ユニタリ群の生成子 \hat { v} の分布を,フーリエ表示で求めた.\hat { v} は速度作用素とか漸近速度作 用素と呼ばれる.このとき,X_{t}/t の弱極限分布は,漸近速度 \hat { v} のスペクトル測度をもち いて, \Ver t E_{ \hat { v} } ( \cdot ) $\Psi $_{ 0} \Ver t ^{ 2} と表せる.彼らが用いた手法は,GJS法と呼ばれ,今野の定理の証明 の簡略化に貢献した.また,今野の定理[20, 21] における初期状態に関する制限も除か れた.GJS 法については,本稿でも重要な地位を占めるので,3節でやや詳しく触れる.GJS 法の肝は,時間スケールされた位置作用素 \hat{x}(t)/t は, t\rightarrow\infty のとき,フーリエ変 換によって,漸近速度のに対角化される ということである.コインが空間に依存する場合は,並進対称性が失われるので,GJS 法はうまく機能しな い.原点でのみでコインが異なる one defectモデルや,原点を境に右と左でコインが異 なる2相系の量子ウォークでは,母関数法を用いた弱収束定理の証明法が開発されている [23, 7, 8].より一般の空間依存があるコインに対しては,スペクトル散乱理論の考え方 が有効である [31].そのために,あるユニタリ行列 C_{\infty}\in U(2) が存在して \di spl ayst yl e \l i m_{ x\r i ght ar r ow\i nf t y} C( x) =C_{ \i nf t y} , x\i n \mat hbb{ Z} (1.2) となる場合を考える.先に紹介したone defectモデルや,有限の点でのみコインが異な る量子ウォークは,当然この範躊に入る.量子ウオークにおけるスペクトル・散乱理論の有効性を概説するのが,本稿の主目的である.射影で, $\Pi $_ { \ma t hr m{ a } \ma t hr m{ c } } ( U) は, U の絶対連続部分空間 \ ma t h c a l { H} _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U) への射影である.量子ウオークの弱収束定理がその古典版である中心極限定理と違うのは,線形的広がり と局在化といわれるの2つの性質が表れる点にある.弱収束定理により, X_{t}/t が V に法 則収束することがいえると, t\rightarrow\infty で,形式的に X_{t}\sim tV と表せる.このことを,線形的広がりという.定義によって,V の分布は, t\rightarrow\infty にお ける量子ウォーカーの速度分布と考えるのが自然である.従って,量子ウォークの弱収束 定理は,量子ウォークの時間漸近的な速度分布の存在定理といえる.一方,局在化とは,V の分布が原点に台をもつ Dirac 測度をもつことをいう.すなわち,P(V=0)>0 である.つまり, t\rightarrow\infty では,速度ゼロになる確率 P(V=0) は,ゼロでない 線形的広がりには,絶対連続部分 e^{ i $\xi $\hat { x} ( t ) /t } $\Pi $_{ \mat hr m{ a} \mat hr m{ c} } ( U) が寄与する.条件(1.3) の下では,加 藤Rosenblum の定理 [28, Theorem XI.8] の離散版 [18, 19, 31] を考えると,ユニタリ作 用素 U=SC と U_{\infty}=SC_{\infty} に対する波動作用素s-\ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w\ i n f t y } U{-t } U_ { \ i n f t y } {t } $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U_ { \ i n f t y } ) , s-\ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w \ i n f t y } U _ { \ i n f t y } {-t } U {t } $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U ) (1.4) が存在する.波動作用素に対する一般論によって,(1.4) の最初の極限を W_{+} とおくと, 2番目の極限は W_{+}^{* } に等しい.また,W_{+} は \ ma t h c a l { H} _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U_ { \ i nf t y } ) から \ ma t h c a l { H} _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U) へのユニタリ作用素 になる.以上のことから, t\rightarrow\infty のとき,s-\ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w\ i n f t y } e {i $ \ x i $ \ h a t { x } ( t ) / t } = $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ p } } ( U) + e {i $ \ x i $ \ h a t { v } } $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U) .$\xi $\i n \mat hbb{ R} が成り立つ.これを用いると, X_{t}/t の弱極限分布が得られる.$ \ d e l t a $ _ { 0 } は原点における Dirac 測度とし, E_{ \hat { v} } を \hat { v} のスペクトル測度とする.Corollary I.2.X_{t}/t の分布は, t\rightarrow\infty のとき,確率分布 μ\muμ=\Ver t \mat hr m{ I } \mat hr m{ I } _ { \mat hr m{ p} } ( U) $\Ps i $_ { 0} \Ver t {2} $\del t a$_ { 0} +\Ver t E_ { \hat { v} } ( \cdot ) $\Pi $_ { \mat hr m{ a} \mat hr m{ c} } ( U) $\Ps i $_ { 0} \Ver t {2} (1.5) に弱収束する. 4節では,仮定 (1.3) の下で,量子ウォークのスペクトル・散乱理論を説明し,Theorem1.1を証明する.また,Theorem1.1の系として,弱収束定理も証明する.5節では,分布のより具体的な形を計算する.Corollary 1.2により, X_{t}/t は(1.5) を 分布にもつ確率変数 V に法則収束するので P(V=0)=\Vert$\Pip(U)_{\mathrm{p}}(U)p​(U)\Psi$_{0}\Vert^{2} (1.6)
量子力学はその多方面への応用における成功にも拘らず、その原理的側面としての観測問題は現在にいたるまで、未解決な部分として残っている。今までに数多くの観測理論が発表されているが、そのどれもがコンセンサスを得られているとは思えない。本論文第二章では、現在までに行われた実験、特に隠れた変数の存在を否定したアスペ達(1982)によるベルの不等式の検証実験について述べ、測定に伴う偶然性は自然が本来持っている本質的偶然性であることを示す。そのため観測過程は個別系でなく統計集団(statistical ensemble)について考察せざるを得ないのである(統計的解釈statistical interpretation)。観測理論には、量子力学の一般定理と相入れないものや、量子力学以外の考えを導入するものがあるが、それ以前に量子力学の枠内で測定過程をどこまで記述できるのかを検討することが先決である。本論文第三章では、部分系としての測定対象系・測定装置系・観測者系の密度行列の時間変化を調べることにより、測定が対象系と装置系の相互作用後に終了することを示した最近の理論を紹介する。これに基づいて行ったオリジナルな研究を第四章で述べる。二重スリットによる干渉縞に対する経路観測の影響を、検出器の反応によって分離することの出来る3つの部分集団のそれぞれについて調べ、結果を物理的に考察した。また、ニールスボーアの粒子像と波動像の相補性を定量化して示すことに成功した。最後に、この思考実験は現実の実験で検証可能であることを強調したい。
場の理論における因果律の歴史は長く,色々な側面を持っている.特に,それは量子力学の非局所的な性質と深く関わっていて観測問題との関連でも興味深い.因果律の場の量子論的記述(微視的因果律)は,しばしばハイゼンベルグ描像で次の様に表現される1).[φ^<(H)>(x),φ^<(H)>(y)]=0 if (x-y)^2<0 x=(x^0,x),x^2≡x^μx_μ≡x_0^2-x^2 (1.1)ここで,φ(x)は場の演算子であり,それがボーズ場(フェルミオン場)ならば[,]は交換子(反交換子)である.つまり(1.1)は「互いに空間的な2点にある場の演算子は可換である」ということを表している.これは,自由な場のみでなく,局所的な相互作用が存在する場合にも成り立つ.また,このことは局所場の理論の最も本質的な要請のひとつにもなっている.量子力学では,可換な物理量は,互いに影響を及ぼさずに観測できるという原理が存在するので(1.1)は,空間的に離れた2点の観測は互いに影響を及ぼし合わないということを示している.つまり,いかなる場の擾乱(信号)も光速を超えて伝わらないということである.しかし,これは抽象的な演算子の関係であって,いかに信号が伝わるかなどということは判りにくい.そこで,別の描像-シュレーディンガー描像-で因果律がいかに表現されるか調べた.はじめに,初期状態の波動関数が時空の原点に局在したデルタ関数で表されるような一粒子の非相対論的・相対論的な量子拡散(quantum diffusion)について調べた.その結果,非相対論的には局在した次の瞬間には粒子は無限遠方まで場所に依らない確率で拡散してしまい,光速を超えて粒子が運動し得るということがわかる.しかし,非相対論では,光速を無限大と近似しているので当然の結果である.相対論的には,その状況はやや改善され,空間的である領域のうち十分遠方である位置に拡散する確率は殆どゼロになる.しかし,相対論にさえも光円錐の外側のコンプトン波長程度の領域には無視できない確率で粒子を見い出すことができることが,簡単な計算からわかる.したがって,この場合も因果律が破れているといえる.この原因については,現在検討中であるが,一つは初期にデルタ関数の波動関数を用意することが非局所的な操作であることに起因していると考えられる.この問題を避けるために,次に局所的な操作により場に擾乱を与え,それが時間とともに場の中をどのように伝わるかを調べた.先ず,自由な場において時空の原点に擾乱を与えるようなラグランジアンとして次のモデルを考えた.*_0=1/2(∂_μφ(x))(∂^μφ(x))-1/2m^2φ^2(x)+jδ^4(x)φ(x) (1.2)ここで,φ(x)はボーズ場(質量mのスカラーボゾン場)の変数である.時刻t<0で任意の初期状態を用意して(1.2)の系で時間発展させt>0での波動(汎)関数をΨ_F[φ]とする.そこで,終状態の空間的領域の密度行列ρ[φ_s,φ_s]を次の様に定義する.ρ[φ_s,φ_s]=∫[dφ_t]Ψ_F^*[φ]Ψ_F[φ]|_φ_t=φ_t [dφ_t]≡II 0|dφ(x) (1.3)φ_t: 時空の原点(擾乱が加わった点)に対して時間的な領域にある場の変数.φ_s: 時空の原点(擾乱が加わった点)に対して空間的な領域にある場の変数.このとき「ρ[φ_s,φ_s]は,Jに依らない」ということを示すことができる.このことは,場に擾乱が加わった点に対し,空間的な領域の状態はその影響を全く受けないということであり,完全に因果律を満していることがわかる.相互作用が存在しても,局所的であるならば同様のことを示すことができる.つまり,シュレーディンガー描像での因果律は「場の擾乱が加わった点に対して空間的な点における密度行列は場の擾乱の影響を受けない」と表現される.さらに,シュレーディンガー描像の因果律の表現からハイゼンベルグの因果律の表現を導くことができる.このことからシュレーディンガー描像の因果律の表現は,ハイゼンベルグ描像のそれと少なくとも等価,又はそれよりも広い概念を含んでいると考えられる.なお,本文中では自然単位系c=h=1を用いる.