この稿では,スペクトル散乱理論の視点に立って,量子ウォークにおける弱収束定理 の概説を試みる.量子ウォークには,大きく分けて,連続時間のものと離散時間のものの2種類がある.連続時間の場合は,グラフ上のラプラシアンをハミルトニアンにもつ量子力学系に他ならず,離散シュレディンガー作用素の研究の射程に入る [6].離散時間の場 合は,時間発展がハミルトニアンから定まらないので,それ特有の扱いが必要になる.この稿では,離散時間量子ウォークに焦点を絞り,単にそれを量子ウォークという.量子ウオークの起源については諸説あるが,古くは1960年代のFeynmanとHibbsに よる経路積分の教科書 [10] にその原型がみらる.80年代には,Gudderの著書 [15] の中 で,Dirac 方程式の離散版として登場する.その後,2000年に前後して,量子アルゴリズムへの応用 [14, 1, 32] の道が開かれると,量子ウォークの研究はいよいよ盛んになる.2002年,今野 [20] が量子ウォークに対する弱収束定理をはじめて証明すると,多くの数 学者が研究に加わるようになる.量子ウォークの理論やアルゴリズムへの応用に関する比較的最近までの結果については,[22, 27, 33] などが参考になる.量子ウォークが実験室レベルで実現できていることは,特筆すべき点である.しかも,さまざまな実現方法があ り,それらをまとめたものが,既に成書として出版されている [24].以下,本稿のテーマである弱収束定理を少し詳しくみていこう.量子ウォーカーの時間発展は,状態のヒルベルト空間 \ma t hc a l { H} 上のユニタリ作用素 U を用いて表される.量子ウォー2017年 86-108 でいえば \ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w\ i n f t y } \ ma t h r m{ E} ( e {i $ \ x i $ X_ { \ ma t h r m{ t } } / t } ) = \ ma t h r m{ E} ( e {i $ \ x i $ V} ) , $ \ x i $ \ i n \ ma t h b b { R} となる.これが,ランダムウォークにおけるdeMoivre-Laplace の定理,または中心極限 定理の量子版とみなせることを2節で説明する.今野が最初に示した弱収束定理 [20, 21] では,空間一様なコインをもつ1次元量子ウオー クを考え,量子ウォーカーは初期時刻で原点にのみ存在すると仮定された.証明は,組合せ論的手法を用いて行われた.この場合は,状態のヒルベルト空間は\mat hcal { H} =\el l ^{ 2} ( \mat hbb{ Z} ; \mat hbb{ C} ^{ 2} ) で与 えられ,時間発展のユニタリ作用素は U=SC と表せる.ここで,S はシフト作用素, C はコイン作用素と呼ばれるユニタリ作用素であ る.一般に , コイン作用素は,ユニタリ行列値の関数 \mathbb{Z}\ni x\mapsto C(x)\in U(2) による掛け 算作用素である.\ri ght arrowt)/t} の t\rightarrow\infty の極限で得られる ユニタリ群の生成子 \hat { v} の分布を,フーリエ表示で求めた.\hat { v} は速度作用素とか漸近速度作 用素と呼ばれる.このとき,X_{t}/t の弱極限分布は,漸近速度 \hat { v} のスペクトル測度をもち いて, \Ver t E_{ \hat { v} } ( \cdot ) $\Psi $_{ 0} \Ver t ^{ 2} と表せる.彼らが用いた手法は,GJS法と呼ばれ,今野の定理の証明 の簡略化に貢献した.また,今野の定理[20, 21] における初期状態に関する制限も除か れた.GJS 法については,本稿でも重要な地位を占めるので,3節でやや詳しく触れる.GJS 法の肝は,時間スケールされた位置作用素 \hat{x}(t)/t は, t\rightarrow\infty のとき,フーリエ変 換によって,漸近速度のに対角化される ということである.コインが空間に依存する場合は,並進対称性が失われるので,GJS 法はうまく機能しな い.原点でのみでコインが異なる one defectモデルや,原点を境に右と左でコインが異 なる2相系の量子ウォークでは,母関数法を用いた弱収束定理の証明法が開発されている [23, 7, 8].より一般の空間依存があるコインに対しては,スペクトル散乱理論の考え方 が有効である [31].そのために,あるユニタリ行列 C_{\infty}\in U(2) が存在して \di spl ayst yl e \l i m_{ x\r i ght ar r ow\i nf t y} C( x) =C_{ \i nf t y} , x\i n \mat hbb{ Z} (1.2) となる場合を考える.先に紹介したone defectモデルや,有限の点でのみコインが異な る量子ウォークは,当然この範躊に入る.量子ウオークにおけるスペクトル・散乱理論の有効性を概説するのが,本稿の主目的である.射影で, $\Pi $_ { \ma t hr m{ a } \ma t hr m{ c } } ( U) は, U の絶対連続部分空間 \ ma t h c a l { H} _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U) への射影である.量子ウオークの弱収束定理がその古典版である中心極限定理と違うのは,線形的広がり と局在化といわれるの2つの性質が表れる点にある.弱収束定理により, X_{t}/t が V に法 則収束することがいえると, t\rightarrow\infty で,形式的に X_{t}\sim tV と表せる.このことを,線形的広がりという.定義によって,V の分布は, t\rightarrow\infty にお ける量子ウォーカーの速度分布と考えるのが自然である.従って,量子ウォークの弱収束 定理は,量子ウォークの時間漸近的な速度分布の存在定理といえる.一方,局在化とは,V の分布が原点に台をもつ Dirac 測度をもつことをいう.すなわち,P(V=0)>0 である.つまり, t\rightarrow\infty では,速度ゼロになる確率 P(V=0) は,ゼロでない 線形的広がりには,絶対連続部分 e^{ i $\xi $\hat { x} ( t ) /t } $\Pi $_{ \mat hr m{ a} \mat hr m{ c} } ( U) が寄与する.条件(1.3) の下では,加 藤Rosenblum の定理 [28, Theorem XI.8] の離散版 [18, 19, 31] を考えると,ユニタリ作 用素 U=SC と U_{\infty}=SC_{\infty} に対する波動作用素s-\ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w\ i n f t y } U{-t } U_ { \ i n f t y } {t } $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U_ { \ i n f t y } ) , s-\ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w \ i n f t y } U _ { \ i n f t y } {-t } U {t } $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U ) (1.4) が存在する.波動作用素に対する一般論によって,(1.4) の最初の極限を W_{+} とおくと, 2番目の極限は W_{+}^{* } に等しい.また,W_{+} は \ ma t h c a l { H} _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U_ { \ i nf t y } ) から \ ma t h c a l { H} _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U) へのユニタリ作用素 になる.以上のことから, t\rightarrow\infty のとき,s-\ d i s p l a y s t y l e \ l i m_ { t \ r i g h t a r r o w\ i n f t y } e {i $ \ x i $ \ h a t { x } ( t ) / t } = $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ p } } ( U) + e {i $ \ x i $ \ h a t { v } } $ \ P i $ _ { \ ma t h r m{ a } \ ma t h r m{ c } } ( U) .$\xi $\i n \mat hbb{ R} が成り立つ.これを用いると, X_{t}/t の弱極限分布が得られる.$ \ d e l t a $ _ { 0 } は原点における Dirac 測度とし, E_{ \hat { v} } を \hat { v} のスペクトル測度とする.Corollary I.2.X_{t}/t の分布は, t\rightarrow\infty のとき,確率分布
μ=\Ver t \mat hr m{ I } \mat hr m{ I } _ { \mat hr m{ p} } ( U) $\Ps i $_ { 0} \Ver t {2} $\del t a$_ { 0} +\Ver t E_ { \hat { v} } ( \cdot ) $\Pi $_ { \mat hr m{ a} \mat hr m{ c} } ( U) $\Ps i $_ { 0} \Ver t {2} (1.5) に弱収束する. 4節では,仮定 (1.3) の下で,量子ウォークのスペクトル・散乱理論を説明し,Theorem1.1を証明する.また,Theorem1.1の系として,弱収束定理も証明する.5節では,分布のより具体的な形を計算する.Corollary 1.2により, X_{t}/t は(1.5) を 分布にもつ確率変数 V に法則収束するので P(V=0)=\Vert$\Pi
p(U)\Psi$_{0}\Vert^{2} (1.6)
t hr m{ K} \ma t hr m{ d } \ma t hr m{ V} 方程式の保存量と一致するので、それら が定める量子可積分系を量子 \ma t hr m{ K} \ma t hr m{ d} \ma t hr m{ V} 系ということがある。K} \ ma t h r m{ d } \ ma t h r m{ V} 系の変形 Virasoro アナログを導入した。本来の IM はlocal density (すなわち Virasoro 代数のカレント T(u) の微分多項式) の1重積分の形をしており local IM と よばれるが、[BLZ2] はまた non-local IM とよばれる別の可換な系列 \ma t hr m{ G} _ { 1} , G2, \cdots を T(u) の多重積分の形で導入し ている。local IM と non-local IM どうしもまた互いに可換である。[FKSW] は変形 Virasoro 代数のカレントおよ びスクリーニングカレントを用いてそれぞれ \mat hbb{ I } _ { N} , \mat hr m{ G} _{ N} の類似を定義し、直接計算によってそれらの可換性を示して いる。(なお変形アナログでは \ma t hb b { I } _ { N} はlocal density の積分ではないが、[FKSW] にならって \mat hbb{ I } _ { N} , \mat hr m{ G} _{ N} の類似もそれ ぞれ ( 1 \ ma t h r m{ o } \ ma t h r m{ c } へ" "non-locaJ" とよぶことにする。) 変形アナログの IM の固有値についてはこれまで知見がなかった。その一つの理由は、[FKSW] の時点ではこれ らIM の正体がよくわからなかった点にあると思われる。その後 \mat hr m{ W} 代数の理論や AGT 予想などの進展を経て、 (本来の) IM は適当な量子代数の \ma t hr m{ R} 行列の転送行列から得られるということが認識されるようになった。本稿では[Sa], Ni], [Ng], [FJMM] などを参照していただくことにし、ここでは $ \ v a r e p s i l o n $ _ { n } の特 徴を挙げるにとどめる。 \bul l et \ ma t h c a l { E} _ { n } は量子化のパラメタ q の他にもう一つ独立なパラメタ q_{1} を持つ。以下 q_{1}q_{2} q3= 1 を満たすパラメタ 数理解析研究所講究録 第2071巻 2018年 160-164
量子開放系のダイナミクスに対する一般論に基づいた議論が展開される.そこでは状態を密度行列により特徴付け,状態空間上の1パラメータ写像として量子ダイナミクスが定義される.特にメモリーを引きずらないMarkov過程に着目し,力学的半群に対する考察を行なう.まずはvon Neumann方程式の超演算子と散逸部の超演算子が可換であるクラスと,Pauliマスター方程式,(現象論的)Bloch方程式との関連性が示される.さらに詳細釣り合いの原理が成立することを証明する.続いて,ミクロな立場によるダイナミクスの考察(縮約された力学)から完全正値性に関する議論を行なう.対象系が2準位系である場合,Gorini et al.の緩和時間に対する議論が一般化され,完全正値性を特徴付ける制約が示される.この制約が完全正値性,また縮約された力学に対する実験検証を与える可能性について議論する.また完全正値性と初期相関に関する考察もなされる.
m Th e r moF i e l dDy n a m i c s( NE TF D)[ 1 ] -[ 4 】と名付け られ た,非平衡量子系 を扱 う正準理論を紹介する。 これは,散逸量子系 を扱 う一貫 した ( 非平 衡系統計力学でのすべての基本的概念,すなわち,B o l t z ma nn方程式,F o k k e r -P l a n c k方 程式,L a n g e v i n方程式,確率 L i o u v i l l e方程式'で代表 される見方 を,一つの土俵で議論 で きるとい う意味で) , しかも,量子力学や場の量子論で学んだ,自然認識の基本である 演算子代数 と表現空間 とい う二重構造を供えた理論体系である。 NE TF Dの表現空間 ( 熱空間,t h e r ma l s p a c e ,と名付け られた)は,2つの Hi l b e r t 空 間の直積で構成 されている.1つばn o n -t i l d e場,もう 1つは t i l d e場の H i l b e r t 空間で ある.NE TF Dでは,いかなる演算子 A にもその髄伴演算子 ( t i l d e演算子)A が伴 って いる。t i l d e共役,-,は, ( AI A2 ) --AI A2 , ( c I Al + C 2 A2 ) --C ; il + C ; 12 , ( i) --A, ( AI ) --〟 , p h H 一 G i - ー n u p n u 1 2 3 4 l H I U ■ H t L Hi ヨ l H は ■ 川 U で定義 される。ただ し, c l や C 2 は, c数である.S c h r 6 d i n g e r表現では,t i l d e演算子 と n o 凪 -t i l d e 演算子は,互いに可換である : l A, B ] -0 .( b 5 ) 散逸は,直積 H i l b e r t 空間全体での回転,すなわち,t i l d e 演算子 とn o n -t i l d e 演算子 を 交ぜ るような回転 として捕 らえられることが明 らかになった。無限小時間発展演算子の中 の t i l d eとn o n -t i l d e 場が掛っている項が,散逸 ( すなわち,非可逆)現象 を司っているの である。この点は,NE TF Dが建設 されて初めて認識 された 【 1 , 2 】 。 I ' 古典系での確率 L i o u v i l l e 方程式 は,久保 【 5 , 6 】 により初めて導入 された。 I この認識 は, G i b b Sアンサ ンブルを定式化 した熱平衡系 の T F Dl 7 】にはなか った。そこには,散逸は 現れない。この点が, N B T F DとT F Dとの本質的な違いのひとつである。Z u b a r e v が, N E T F Dの方法を 賞賛 し,非平衡量子現象の研究 に用 い始めたことに,ここで言及 させていただきたい 【 8 】 .-3 1 1 研究会報告 B o l t z ma n nは,微視的で可逆 な Ne wt o n力学か ら出発 して, 自然界 の非可逆性 を導出 しようとした.しか し,B o l t z ma n n方程式 を導 く際 に,分子混沌 と呼 ばれる確率操作 を, 知 らず に導入 していたことが判明 したのである ( その辺のか ら くりの簡単 な解説は,【 9 ] を 参照のこと) 。我 々の新 しい方法が見通 しの良い ものである とい う技術的 な面 ばか りでな く,散逸量子場の理論 としてのその二重構造が,B o l t z ma nnの初め措 いた夢 を,何等かの 意味 で実現 させ るのではないか, とい う期待 が湧いて くる.B o l t z ma n nの時代 には, こ の二重構造 は認識 されていなか ったのである。 詳 しい NE TF D の解説 と参考 文献 は 【 4 ]を参照 して頂 くと して,s e m i -f re e時間発展 演算子 ( 量子 F o k k e r -P l a n c k方程式 と,定常的量子 Wi e n e r 過程 に従 う量子確率 L i o u v i l l e 方程式,それぞれに関する もの)が,い くつかの基本的要請の元 に,如何 に して創 られる かを示す.S e mi -f r e e時間発展演算子は,双線形で大域的ゲージ不変性 を満 たす ものであ る。以下,散逸量子系 の正準理論が,前者の時間発展演算子 によって如何 に創 られるかを 紹介 し,量子系確率微分方程式の一貫 した体系が,如何 に して建設 されるか を示す ( 図 2 参照 ) 。そ うす ると,量子散逸系の方程式 に纏 わる次の ような基本的 な疑問が,解決 され ることが見 えて くる ( 量子系 L a n g e v i n方程式 に対す る問題提起 に関 しては,【 1 0 】も参照 の こと) 0 ql .量子散逸系 を扱 う正準理論 ( つ まり,時間発展が正準変換 で誘起 される)は,建 設可能 だろ うか ?考 え もな しに a ( i ) -a e ( i w+A ) i , a I ( i ) -a † e ( t ' U-A ) i ,の ようにエネルギー ・ スペ ク トルに虚数部 を導入するだけでは,同時刻交換関係 は, け っ して保存 されない : l a ( i ) , a I ( i ) ] -l a , a † 一 e 加 t ( 7 ) Q2 ・ 揺動力演算子 は KMS条件 [ 1 1 , 1 2 】を満 たせ ないので,量子系 では白色過程 は許 されない と言われている。 た とえば,L a n g e v i n方程式 孟 a ( i ) -i d a ( i ) 一項 ・佃 ( 8 ) 孟 a ' ( i ) -i wa t ( i ) -n at ( i ) II-T ( i ) , ( 9 ) を考 えてみ よう。ただ し,f C は,摩擦係数である.また,a( i )ta t ( i ) は,それぞれ Hi l b e r t 空間の消滅,生成確率演算子で,i -0に正準交換関係 を満たす もの とする :( 【 a ( i ) , a I ( i ) ] ) -1 .( 1 5 )S c h r 6 d i n g e r 表現でなされるべ きである。それでは,La n g e v i n方程式に現 れる揺動 力の相関 と して,はた して,S c h r 6 d i n g e r表現 と同 じもの を採用 して長いのであろ うか ?q4 .如何 に して,確率過程の表現空間 を建設 した ら良いのであろ うか ?時間発展演算子の一般形 は,本質的 に L i o u v i l l e方程式 孟 p ( i ) --i L p ( i ) , に関る次の性質か ら導 きだ された。 Dl .L i o u v me演算子のエル ミー ト性 : L f =L.