可逆な多体系ボーム力学からの粘性の創発― 横運動量拡散、量子揺動散逸関係、および流体力学極限 ―
Kawaguchi Masanori
Abstract
本研究は、可逆な多体系量子力学から、不可逆に見える粘性および横運動量拡散がどのように創発し得るかを、Bohm力学、Rubin型bathモデル、一般化Langevin方程式、および流体力学極限を用いて検討したものである。 まず、閉じた少数粒子Bohm系、粒子数を増加させた系、および相互作用強度を増加させた系について横運動量自己相関を数値的に解析した。その結果、粒子数の増加や相互作用の強化だけでは、Navier–Stokes型の横運動量拡散に必要な Γ⊥(k) ∝ k² の関係は現れず、振動や再帰が残ることを確認した。 次に、resolvedな横運動量モードを、多数の未解像自由度からなるRubin型調和bathへ局所的に結合した可逆Hamiltonianを導入した。局所隣接差のFourier変換から λk = 4 sin²(k/2) が得られ、長波長極限では λk = k² + O(k⁴) となる。このモデルにおいて、bathのモード密度を増加させると、横運動量相関は指数減衰へ近づき、 Γ⊥(k) = νk² + O(k⁴) が数値的に得られることを確認した。これにより、 ν = lim(k→0) Γ⊥(k)/k² として動粘性係数を定義し、せん断粘性 ηshear = ρν へ接続できる。 さらに、量子化した二次Rubin Hamiltonianを純粋Gaussian状態として厳密に時間発展させ、Bohm軌道ensembleから得られる平均運動量応答が標準量子力学のresolved momentum responseと一致することを確認した。同一のspectral densityからmemory kernelと揺らぎ相関を構成し、量子fluctuation–dissipation relationおよびその高温における古典極限を数値的に検証した。また、平衡運動量自己相関とimpulse responseの一致を通じてOnsager回帰も確認した。 有限bathでは再帰が生じるが、bathモード数の増加に伴いhydrodynamicな指数減衰が成立する時間窓が拡大し、再帰時間が連続スペクトル極限で無限遠へ押し出されることを示した。全体系は可逆かつユニタリである一方、resolved subsystemのみを見ると、横運動量の情報が多数の未解像自由度へ分散し、有限観測時間では回収不能となることで、有効な散逸と粘性が現れる。 本研究は、Bohm量子ポテンシャルそのものを粘性と同一視するものではない。また、すべての実在流体における粘性の普遍的起源を証明するものでもない。むしろ、可逆な微視的Hamiltonian、多数の未解像モード、memory loss、連続スペクトル極限、および長波長極限を通じて、Navier–Stokes型横運動量拡散と粘性係数がどのように創発し得るかを、明示的かつ再現可能なモデルによって示すことを目的とする。