超高位置精度の単一色中心形成に向けたレーザー冷却イオン源の開発
穂坂 綱一, 飯澤 正登実, 柏木 啓次, 百合 庸介, 細谷 青児, 宮脇 信正, 山縣 諒平, 石井 保行, 島田 紘行, 佐藤 隆博, 齋藤 勇一, 小野田 忍, 鳴海 一雅, 室尾 健人, 伊藤清一, 岡本宏己
Abstract
ダイヤモンドなどの規則的な結晶格子中で、あるべき原子がない点欠陥(空孔: Vacancy; V)や、不純物原子での置換は、本来なら透明な結晶を着色させる要因になることから色中心とも呼ばれる。特にダイヤモンド中で、空孔(V)と窒素原子(N)が結合した複合欠陥であるNV中心は、単一欠陥での繰り返し計測が可能であり、常温、大気圧下で動作可能な、量子ビットや量子中継器、量子センサー素子として近年、注目を集めている。 NV中心生成法の一つにイオン注入がある。ダイヤモンド基板に数keV以上の窒素原子イオンを注入し熱処理を行うと、高エネルギーイオン注入で生成する多くの点欠陥(V)と、注入した窒素原子(N)が結合し、ビームサイズの領域内にNV中心が確率的に生成される。量子ビットや量子中継器等の量子性を利用した応用では、想定外の相互作用はコヒーレンスを劣化させるため、目的の領域内に単一の色中心のみが存在していることが望ましい。ビームサイズはマスク等で限定し、単純にイオン数を減らす確率的なイオン注入では、2イオンの同時注入が無いほどイオンを減らすと、大半が0イオンとなる。我々は、高い位置精度で単一色中心を決定論的に生成する方法として、イオントラップを利用したレーザー冷却イオン源を開発している。この方法では、単一イオンのみをイオントラップから射出し、100%注入する。また、mKレベルまでレーザー冷却したイオンを適切なレンズで収束させ、数nmの位置精度で注入する。 量子中継器の実現に向け、100nmオーダーの作り込んだダイヤモンド構造体に100nmの深さでの単一NV中心を配置するための、レーザ―冷却イオン源を開発している。レーザ―冷却によりトラップ中で静止させ形成するクーロン結晶から単一イオンを引き出し、+50kVの静電場により加速し、ダイヤモンド基板に注入する。1価のN+イオンの注入では50keVで、2価のN2+イオンでは100keVで注入される。 開発中のレーザー冷却イオン源の概要を図1(a)に示す。様々なイオンを冷却・注入するため、冷却が容易なCa+イオンを冷媒としてレーザー冷却する。外部イオン源で生成したN2+イオンをイオントラップに導入し、レーザー冷却Ca+イオンと共存させることで、直接はレーザー冷却されないN2+イオンもイオン間の相互作用により1mK程度まで冷却される(共同冷却)。+50kVに昇圧したトラップから射出されたN2+イオンは、静電レンズにより、加速・収束されながら、接地されたダイヤモンド基板に数十nmの位置精度で注入され、100nmの深さで停止する。イオン注入で生成した点欠陥(V)と、単一窒素原子(N)をレーザー加熱で熱処理し、形成した単一NV中心を共焦点顕微鏡で、その場観察する。NV中心が観察されない場合には、観測されるまで、点欠陥(V)を追加する。 最近、立ち上げ中のレーザー冷却イオン源実機で、Ca+のレーザ―冷却によるクーロン結晶の形成に成功した。