駆動電流変調によるRamsey-CPT共鳴のライトシフト特性
ダイスケ ハラグチ, 大輔 原口
Abstract
Coherent Population Trapping (CPT) 共鳴を利用した原子時計は、小型 ・低消費電力動作でありながら水晶振動子よりも高い周波数安定度を持ち、次世代の小型周波数基準として注目されている。周波数安定度を大幅に改善させる方法の一つに、レーザ光をパルス化し、 Ramsey CPT 共鳴を観測するパルス励起法がある。パルス励起法では共鳴線幅・コントラストの改善により短期安定度特性が向上するだけでなく、ライトシフト(レーザ光強度の変動による中心周波数のシフト)を抑制することから、長期安定度特性の改善も可能である。しかし、レーザ光のパルス化に音響光学変調装置 (AOM) を必要とすることから、超小型原子時計 (Chip Scale Atomic Clock; CSAC) への適用は困難とされてきた。本研究室では、レーザ光源である VCSEL の駆動電流をパルス化させることでパルス励起を行う手法を提案し、 Ramsey CPT 共鳴の観測に成功した。提案法では AOM を使用せず、 CSAC の装置構成をそのまま用いることができ、小型・低消費電力を保ちながら周波数安定度の向上が可能である。しかし、これまでの観測方法では観測時にレーザ波長の変動が生じることから、ライトシフトの計測が困難であり、長期安定度に関する考察を行う ことができなかった。本研究では、駆動電流変調により観測した Ramsey CPT 共鳴のライトシフト特性を評価することを目的とし、観測システムの改善を行った。これまでのサンプル・ホールド回路を用いたシステムでは、特定の波長の透過光量を取得することが困難であった。本研究では、デジタイザーを用いて吸収線のピーク値を取得できるよう観測システムを変更した。吸収線のピーク値が現れる波長は一定であるため、これにより特定の波長の透過光量を取得することができ、正確なライトシフトの計測ができる。加えて、実験装置の制御プログラ ムを改善した。これまでの制御プログラムでは、各種パラメータを変更するために、その都度プログラム自体の書き換えが必要であった。ライトシフト測定のためにレーザ光量を大幅に変化させた場合、ロックイン制御などのパラメータの変更が必要となる。そのため、各種パラメータの変更が容易となるような制御プログラムを新たに作成した。ライトシフトを求めるために必要な共鳴中心周波数は、測定データにカーブフィッティングを行い、近似曲線の最大値を求めることで算出した。これにより実測値から得た中心周波数と、各種設定値から算出した理論値を比 較することで、正確にライトシフトが測定できていることを確認できた。結果として、駆動電流変調によるパルス励起では、連続励起の場合と比較して 41 倍と大幅なライトシフト抑制が可能となることが明らかとなった。また、理論値との比較から、駆動電流変調によるパルス励起では、 AOM を用いたパルス励起でライトシフトを悪化させる要因であるレーザ入射から観測までの時間の影響をほとんど受けないということが分かった。このことから駆動電流変調により、長期安定度の大幅な改善が可能となる。本論文は全5章で構成されている。第1 章は序論 である。本研究における背景 を示し、目的を明らかにする。第2章は CPT共鳴 を利用した原子時計に関する内容である。 CPT共鳴の原理と周波数安定度の支配的要因について説明 し、さらに本研究で考察の対象となるライトシフトについて詳述する。第3章は VCSEL 駆動電流変調について述べる。 AOM を用いずに RamseyCPT 共鳴を観測するための原理と、実験装置構成を説明する。駆動電流変調ではレーザの出力波長が生じるため、波長変動の推定方法も説明する。またこれまでのサンプル・ホールド回路を用いた吸収線観測で生じる問題点について述べ、解決策として吸収線のピーク値を取得する吸収線観測方法を提案する。第4章は駆動電流変調による Ramsey CPT 共鳴の観測結果である。初めに新たな観測方法により得た吸収線から、短期安定度に寄与する共鳴線幅とコントラストを求め、連続励起による CPT 共鳴と比較し短期安定度の性能が改善されていることを確認する。続いてライトシフトの測定結果を示す。数値計算で求めた値と比較することで観測結果の有効性を確認し、駆動電流変調によりライトシフト特性が向上することを示す。第5章は結論である。実験により得られた知見をまとめ、本研究の有効性を確認し、今後の展望について述べる。