量子力学の未解決問題:なぜマクロ古典力学系があるのか?
Shogo Tanimura
Abstract
2025年3月10, 11日に東京大学 柏キャンパス 生産技術研究所で開催された Quantum Foundations 2025(QF25)研究会における講演資料。2025年は量子力学100周年にあたる年であることを踏まえて、ここでは量子力学に関連した未解決問題について論じた。とくに人間サイズのマクロ系は、原子や電子など量子力学に従うミクロ要素でできているにも関わらず、量子力学とは異質な古典力学の法則に従っているように見える。構成要素が従う基本法則からストレートに演繹的説明ができないような性質や挙動が集団系において顕在化することは創発と呼ばれるが、演繹的説明は自明ではないにしても、「ミクロ系が集まってマクロ系ができている」という存在様式は確実な事実であるからには、マクロ古典系の創発もミクロ量子力学を基礎として演繹はできなくても、少なくとも正当化されるべきである。本講演では、相対論的場の量子論を基礎において、基底状態と励起状態の間にエネルギーギャップがあるmassiveな量子場から低エネルギー極限で粒子数の確定した非相対論的質点の量子力学が導かれ、さらに粒子数無限大の集団極限で古典力学が導かれるという筋書きを紹介した。とくに無限自由度量子系代数の表現のセクター構造から古典的可換変数の存在が導かれることが、この筋書きを裏付けている。また、エネルギーギャップを持たないmassless量子場からの低エネルギー極限では粒子数不定コヒーレント状態を経由して古典場の理論が導かれる。最大の難問は、観測による波束の収縮の導出である。これについては議論の余地が大いにあるが、ペンローズの重力収縮仮説は一つの可能性を提示している。この点も含めて今後の研究の見通しについて論じた。