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秘密量子信号処理

勇人 西窪

Published Mar 1, 2024• 0 citations
OpenAlex

Abstract

量子計算は古典計算と比較して,特定の問題について優位に計算を行うことができることが様々な研究で立証されており,現在注目を集めている.中でも,量子信号処理(QSP) というLow とChuang によって提案された,1 量子ビットの回転行列の回転角を変換する技術は一際注目が集められている.この技術は元来,核磁気共鳴における信号強度を増幅するための手法であったが,量子情報科学における重要な問題の一つであるハミルトニアンシミュレーションに対して最適なアルゴリズムを提供することなども証明されており,その応用可能性について広く研究が行われている.具体的にはMaslov らによる1 量子ビットメモリ上での対称ブール関数の計算などがある.古典計算では1 ビットメモリ上で対称ブール関数を計算することは不可能であることが知られており,この結果は量子計算の優位性を示していることが分かる.この計算プロトコルにおいて,QSP は1 量子ビットメモリで計算するための核を担っている. 本研究ではQSP について暗号理論の観点からその応用可能性について検討し,その結果,新たな応用として秘密量子信号処理(PQSP) を提案する.PQSP は秘密同時通信(PSM) と呼ばれる計算モデルにおいてQSP を実行するプロトコルである.具体的には,それぞれがQSP の回転角に関する秘密の入力をもつn 人の参加者が,一人の独立した評価者を通じてQSP の出力ユニタリ行列を計算するというものである.PQSP では評価者に対して各参加者が持つ秘密の入力が,出力から洩れる情報以上に洩れることがないことを保証しつつ,参加者から評価者へ送信されるメッセージの通信量が無限の場合は完全に正しい計算結果を得ることができる.ただし,通信量を有限とするためには各参加者の送信するメッセージを有限精度で表現する必要があり,その際にはPQSP が最終的に出力する行列に誤りが発生する.よって,本研究ではこの精度と誤りのトレードオフについての評価も行う. PQSP の応用例として,先述のMaslov らによる1 量子ビットメモリ上での対称ブール関数の計算が挙げられる.本研究では,Maslov らの手法で使用されているQSP をPQSP と置換することで,1 量子ビットメモリ上で対称ブール関数を計算することができるという優位性はそのままに,PSM モデルにおいて評価者に対して出力情報以上を洩らさずに計算が可能であることを示した. また,本研究ではCosentino らによって提案された1 量子ビットプロトコルに対してPQSPで用いる秘匿化手法を適用することで,PSM モデルにおいて1 量子ビットメモリ上で任意のブール関数を計算することが可能なプロトコルである秘密1 量子ビットプログラム(P1QP)を提案する.P1QP はPQSP の応用で計算可能な対称ブール関数より大きな関数クラスに属する任意のブール関数を計算可能であることから,より一般的であるといえる.

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量子相認識に向けた量子畳み込みニューラルネットワークのチャネル注意機構の提案

Gekko Budiutama, 大門 俊介, 西 紘史 +3 more

量子畳み込みニューラルネットワーク(QCNNs)は、量子コンピュータ上での機械学習アルゴリ ズムとして有望なアプローチの一つである[1]。QCNNsは量子位相認識といった様々な学習タスク で成功を収めており[2]、勾配消失問題に耐性があるため、トレーニングが容易である。しかし、 QCNNsの実用性を向上させるためには、トレーニングコストの削減と性能の向上が不可欠である。 本研究では、QCNNsに向けたチャネル注意機構を提案する[3]。このチャネル注意機構では、従 来のQCNNsで破棄される量子ビットを測定することにより出力状態のチャネルを生成し、各チャ ネルに重要性を示す重みパラメータが割り当てられる(図 a)。基底状態から量子相を予測する 量子相認識タスクにおいて、チャネル注意機構を導入したQCNNと従来のQCNNを比較した。 その結果、チャネル注意機構を導入した QCNN は、正しい状態の確率を高め、予測結果を理想 的な解に近づけた(図 b)。さらに、チャネル注意機構は QCNN の訓練エポック数を大幅に削減 し、訓練コストを抑えることができた。また、QCNN−古典ニューラルネットワークの従来のハイ ブリッドモデルに比較した結果、 チャネル注意機構を導入した QCNN はより少ないパラメータ かつ高精度で量子相を認識する ことができた。したがって、提案 したチャネル注意機構は QCNNs の実用性、汎用性、および使いや すさを向上する高効率かつ低コ ストな手法である。

•Mar 25, 2024•0 citations

Private Quantum Signal Processing

Akinori Kawachi, Yuto NISHIKUBO

Quantum signal processing (QSP), which is a general technique for construction of 1-qubit rotation operators, is a strong framework for quantum algorithm design. We consider a scenario of information-theoretically secure computation for QSP: n parties who have private angle parameters make the evaluator perform the QSP from the sum of their angles in a privacy-preserving manner through noninteractive communication. In this scenario, we construct a private simultaneous messages (PSM) protocol for QSP, named Private QSP (PQSP). As an application, we construct an efficient PSM protocol for symmetric Boolean functions with an evaluator of 1-qubit workspace by adapting PQSP to the 1-qubit quantum algorithm for symmetric Boolean functions of Maslov et al. [1]. We also show that the technique of PQSP works for the 1-qubit program for Boolean functions of Cosentino et al. [2]. We construct an efficient PSM protocol for Boolean functions computable by O(log n)-depth circuits with an evaluator of 1-qubit writable workspace from their 1-qubit program [3]. Such efficient PSM protocols with space-bounded classical evaluators have not been known so far.

IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics Communications and Computer Sciences•Mar 6, 2025•0 citations

確率的対数領域計算による確率行列のスペクトルギャップ増幅

Kensuke Suzuki

近年,量子計算機の研究開発が盛んに行われており,量子計算量クラスに関する理論的な研究も活発に行われている.量子計算機は古典計算機に比べ高速に計算できることが期待されており,すでに実装可能な量子計算機がスーパーコンピュータを上回る性能に達しているという研究結果も存在する[3].しかし現在実装可能な量子計算機は古典計算機に比べ扱えるビット数が少ないため,量子領域計算クラスに関する困難性を明らかにすることは重要な課題となっている. また量子計算機はすべての問題において古典計算機より高速に計算できるわけではない.量子ビットは古典ビットに比べ少ない量で多くの情報を保持することが可能だが,保持した情報を一つずつ取り出すといった操作は得意ではない.こういった性質から,量子計算機では行列演算など複数の情報を用いた演算を古典計算機より少ないステップで行い,その結果を出力するという問題に強く,実際に行列に関する様々な問題の量子アルゴリズムが考案されている.こういった量子計算量クラスに関する様々な研究成果が出る中で,古典計算量クラスとの関係性を明らかにすることは量子計算機を活用するうえで重要な指標となる.現在行列問題における古典計算量クラスと量子計算量クラスの違いとして,扱えることのできる行列の種類や,近似を行う際の精度といったことが予想されている. このような背景より,古典における領域複雑性と行列問題の精度の観点から,Doron らの研究[6] に注目した.Doron らは確率行列の第二固有値を判定する問題について,逆多項式の精度を要求する場合はBPL 完全であることを示した.しかし彼らの研究において,より簡単な問題である定数精度を要求する第二固有値問題がどれほど困難かについては議論されておらず,定数精度と逆多項式精度の第二固有値問題における困難性が同等かは不明である.そこで本研究では逆多項式精度の第二固有値問題を定数精度に確率的対数領域計算で帰着させることで,定数精度と逆多項式精度の第二固有値問題が確率的対数領域計算において同等の困難性を持つことを示そうと試みた.結果として確率的対数領域計算が可能な状況では,定数精度の第二固有値問題が一部の逆多項式精度の問題より困難であることを示した.

•Mar 1, 2023•0 citations

多電子系の遍歴・局在・秩序化(第51回 物性若手夏の学校(2006年度))

Yoshio Kuramoto

単独の電子は,質量・電荷・スピンで特徴付けられ,その性質は定量的によくわかっている。しかし,このような電子が多数集まると,非常に豊かで思いがけない性質を示す。固体中に凝縮した電子が示す超伝導,強磁性,分数量子ホール効果などはその例である。単独の電子の固有状態は,自由空間では平面波であるが,多数の電子の固有状態は必ずしも平面波ではない。すなわち斥力相互作用が強いと,平面波状態は不安定になり,多数の電子は自発的に局在する。この状態は,電子の結晶とみなせる。それでは逆に,平面波状態(フェルミ液体状態)は電子間の相互作用があっても生き残れるか,と問うこともできる。実はこの答えは単純ではない。その際,系の次元性が本質的に重要になる。この講義では,量子多体系としての電子系が示す興味ある性質を理解するために,単純な例から出発して重要な基本概念を説明する。特に,近藤効果,朝永・ラッティンジャー流体,モット絶縁体,動的有効場などを直感的に理解できるようにしたい。また,できるだけ最近の実験結果を含む新しい例題を選んで,量子多体系に関する最先端研究の現状がわかるようにしたい。

•Feb 20, 2007•0 citations

ダイヤモンド中 NV 中心アンサンブルの環境ノイズ解析

寛 林, 雄一郎 松崎, 芦田 貴紀 +12 more

NV 中心は量子情報分野での応用が期待されている。本研究では、様々なスピン濃度(窒素不純物(P1 中心)と NV 中心濃度の合計)を持つ 9 つのダイヤモンド試料に対し、ハーンエコー測定を行い理論式により解析を行った。その結果、スピン濃度が減少するにつれて、信号が指数関数的減衰から非指数関数的減衰に移り変わることが分かった。また、ノイズ相関時間とノイズ強度がスピン濃度に依存することが分かった。

•Feb 28, 2020•0 citations

多次元振動分光スペクトルによる散逸性量子トンネル過程の理論的解析(修士論文(2004年度))

Akihito Ishizaki

散逸の影響を受ける量子トンネル過程は、物理学から化学そして生命現象に至るまで多くの分野において重要な役割を果たしており、これまでにも精力的に調べられてきた。しかし、その理論的取扱いや実験的観測の難しさが、多くの興味ある問題の解決を困難なものにしている。本研究では、有色ノイズを生む調和振動子熱浴と結合した1次元対称二連井戸ポテンシァル系を考察する。この系は、分光学的にも興味が持たれている凝縮相中のプロトン移動異性化反応を記述するモデルである。系と熱浴の相互作用としては、散逸(縦緩和と横緩和)を引き起こす従来の線形-線形結合だけでなく、周波数揺動による純粋位相緩和を誘起する非線形-線形結合をも考慮する。このような系に対して、久保の確率過程的Liouville方程式を拡張したGauss-Markov量子Fokker-Planck方程式を解き、双極子μ(Q^^^)の四体相関関数で定義される二次元赤外シグナルを計算した。その結果、入射レーザーパルスの位相整合条件で決まる特定の方向で観測される二次元赤外シグナルの非対角ピークから、トンネル分裂準位間の熱的励起・緩和過程が分離されて観測できることが示される。トンネル分裂準位という真に量子的な系に対する凝縮相の散逸効果を視覚的に捕らえることができるのである。また、従来の実験技術では測定が困難であった凝縮相中のプロトン移動反応の速度定数が、二次元赤外スペクトルからは簡単に評価できる可能性が示される。多次元振動分光法は、凝縮相化学反応の速度定数を測定する新しい技術であると言えよう。

Bussei Kenkyu•Nov 20, 2005•0 citations
量子計算は古典計算と比較して,特定の問題について優位に計算を行うことができることが様々な研究で立証されており,現在注目を集めている.中でも,量子信号処理(QSP) というLow とChuang によって提案された,1 量子ビットの回転行列の回転角を変換する技術は一際注目が集められている.この技術は元来,核磁気共鳴における信号強度を増幅するための手法であったが,量子情報科学における重要な問題の一つであるハミルトニアンシミュレーションに対して最適なアルゴリズムを提供することなども証明されており,その応用可能性について広く研究が行われている.具体的にはMaslov らによる1 量子ビットメモリ上での対称ブール関数の計算などがある.古典計算では1 ビットメモリ上で対称ブール関数を計算することは不可能であることが知られており,この結果は量子計算の優位性を示していることが分かる.この計算プロトコルにおいて,QSP は1 量子ビットメモリで計算するための核を担っている. 本研究ではQSP について暗号理論の観点からその応用可能性について検討し,その結果,新たな応用として秘密量子信号処理(PQSP) を提案する.PQSP は秘密同時通信(PSM) と呼ばれる計算モデルにおいてQSP を実行するプロトコルである.具体的には,それぞれがQSP の回転角に関する秘密の入力をもつn 人の参加者が,一人の独立した評価者を通じてQSP の出力ユニタリ行列を計算するというものである.PQSP では評価者に対して各参加者が持つ秘密の入力が,出力から洩れる情報以上に洩れることがないことを保証しつつ,参加者から評価者へ送信されるメッセージの通信量が無限の場合は完全に正しい計算結果を得ることができる.ただし,通信量を有限とするためには各参加者の送信するメッセージを有限精度で表現する必要があり,その際にはPQSP が最終的に出力する行列に誤りが発生する.よって,本研究ではこの精度と誤りのトレードオフについての評価も行う. PQSP の応用例として,先述のMaslov らによる1 量子ビットメモリ上での対称ブール関数の計算が挙げられる.本研究では,Maslov らの手法で使用されているQSP をPQSP と置換することで,1 量子ビットメモリ上で対称ブール関数を計算することができるという優位性はそのままに,PSM モデルにおいて評価者に対して出力情報以上を洩らさずに計算が可能であることを示した. また,本研究ではCosentino らによって提案された1 量子ビットプロトコルに対してPQSPで用いる秘匿化手法を適用することで,PSM モデルにおいて1 量子ビットメモリ上で任意のブール関数を計算することが可能なプロトコルである秘密1 量子ビットプログラム(P1QP)を提案する.P1QP はPQSP の応用で計算可能な対称ブール関数より大きな関数クラスに属する任意のブール関数を計算可能であることから,より一般的であるといえる.
量子畳み込みニューラルネットワーク(QCNNs)は、量子コンピュータ上での機械学習アルゴリ ズムとして有望なアプローチの一つである[1]。QCNNsは量子位相認識といった様々な学習タスク で成功を収めており[2]、勾配消失問題に耐性があるため、トレーニングが容易である。しかし、 QCNNsの実用性を向上させるためには、トレーニングコストの削減と性能の向上が不可欠である。 本研究では、QCNNsに向けたチャネル注意機構を提案する[3]。このチャネル注意機構では、従 来のQCNNsで破棄される量子ビットを測定することにより出力状態のチャネルを生成し、各チャ ネルに重要性を示す重みパラメータが割り当てられる(図 a)。基底状態から量子相を予測する 量子相認識タスクにおいて、チャネル注意機構を導入したQCNNと従来のQCNNを比較した。 その結果、チャネル注意機構を導入した QCNN は、正しい状態の確率を高め、予測結果を理想 的な解に近づけた(図 b)。さらに、チャネル注意機構は QCNN の訓練エポック数を大幅に削減 し、訓練コストを抑えることができた。また、QCNN−古典ニューラルネットワークの従来のハイ ブリッドモデルに比較した結果、 チャネル注意機構を導入した QCNN はより少ないパラメータ かつ高精度で量子相を認識する ことができた。したがって、提案 したチャネル注意機構は QCNNs の実用性、汎用性、および使いや すさを向上する高効率かつ低コ ストな手法である。
Quantum signal processing (QSP), which is a general technique for construction of 1-qubit rotation operators, is a strong framework for quantum algorithm design. We consider a scenario of information-theoretically secure computation for QSP: n parties who have private angle parameters make the evaluator perform the QSP from the sum of their angles in a privacy-preserving manner through noninteractive communication. In this scenario, we construct a private simultaneous messages (PSM) protocol for QSP, named Private QSP (PQSP). As an application, we construct an efficient PSM protocol for symmetric Boolean functions with an evaluator of 1-qubit workspace by adapting PQSP to the 1-qubit quantum algorithm for symmetric Boolean functions of Maslov et al. [1]. We also show that the technique of PQSP works for the 1-qubit program for Boolean functions of Cosentino et al. [2]. We construct an efficient PSM protocol for Boolean functions computable by O(log n)-depth circuits with an evaluator of 1-qubit writable workspace from their 1-qubit program [3]. Such efficient PSM protocols with space-bounded classical evaluators have not been known so far.
近年,量子計算機の研究開発が盛んに行われており,量子計算量クラスに関する理論的な研究も活発に行われている.量子計算機は古典計算機に比べ高速に計算できることが期待されており,すでに実装可能な量子計算機がスーパーコンピュータを上回る性能に達しているという研究結果も存在する[3].しかし現在実装可能な量子計算機は古典計算機に比べ扱えるビット数が少ないため,量子領域計算クラスに関する困難性を明らかにすることは重要な課題となっている. また量子計算機はすべての問題において古典計算機より高速に計算できるわけではない.量子ビットは古典ビットに比べ少ない量で多くの情報を保持することが可能だが,保持した情報を一つずつ取り出すといった操作は得意ではない.こういった性質から,量子計算機では行列演算など複数の情報を用いた演算を古典計算機より少ないステップで行い,その結果を出力するという問題に強く,実際に行列に関する様々な問題の量子アルゴリズムが考案されている.こういった量子計算量クラスに関する様々な研究成果が出る中で,古典計算量クラスとの関係性を明らかにすることは量子計算機を活用するうえで重要な指標となる.現在行列問題における古典計算量クラスと量子計算量クラスの違いとして,扱えることのできる行列の種類や,近似を行う際の精度といったことが予想されている. このような背景より,古典における領域複雑性と行列問題の精度の観点から,Doron らの研究[6] に注目した.Doron らは確率行列の第二固有値を判定する問題について,逆多項式の精度を要求する場合はBPL 完全であることを示した.しかし彼らの研究において,より簡単な問題である定数精度を要求する第二固有値問題がどれほど困難かについては議論されておらず,定数精度と逆多項式精度の第二固有値問題における困難性が同等かは不明である.そこで本研究では逆多項式精度の第二固有値問題を定数精度に確率的対数領域計算で帰着させることで,定数精度と逆多項式精度の第二固有値問題が確率的対数領域計算において同等の困難性を持つことを示そうと試みた.結果として確率的対数領域計算が可能な状況では,定数精度の第二固有値問題が一部の逆多項式精度の問題より困難であることを示した.
単独の電子は,質量・電荷・スピンで特徴付けられ,その性質は定量的によくわかっている。しかし,このような電子が多数集まると,非常に豊かで思いがけない性質を示す。固体中に凝縮した電子が示す超伝導,強磁性,分数量子ホール効果などはその例である。単独の電子の固有状態は,自由空間では平面波であるが,多数の電子の固有状態は必ずしも平面波ではない。すなわち斥力相互作用が強いと,平面波状態は不安定になり,多数の電子は自発的に局在する。この状態は,電子の結晶とみなせる。それでは逆に,平面波状態(フェルミ液体状態)は電子間の相互作用があっても生き残れるか,と問うこともできる。実はこの答えは単純ではない。その際,系の次元性が本質的に重要になる。この講義では,量子多体系としての電子系が示す興味ある性質を理解するために,単純な例から出発して重要な基本概念を説明する。特に,近藤効果,朝永・ラッティンジャー流体,モット絶縁体,動的有効場などを直感的に理解できるようにしたい。また,できるだけ最近の実験結果を含む新しい例題を選んで,量子多体系に関する最先端研究の現状がわかるようにしたい。
NV 中心は量子情報分野での応用が期待されている。本研究では、様々なスピン濃度(窒素不純物(P1 中心)と NV 中心濃度の合計)を持つ 9 つのダイヤモンド試料に対し、ハーンエコー測定を行い理論式により解析を行った。その結果、スピン濃度が減少するにつれて、信号が指数関数的減衰から非指数関数的減衰に移り変わることが分かった。また、ノイズ相関時間とノイズ強度がスピン濃度に依存することが分かった。
散逸の影響を受ける量子トンネル過程は、物理学から化学そして生命現象に至るまで多くの分野において重要な役割を果たしており、これまでにも精力的に調べられてきた。しかし、その理論的取扱いや実験的観測の難しさが、多くの興味ある問題の解決を困難なものにしている。本研究では、有色ノイズを生む調和振動子熱浴と結合した1次元対称二連井戸ポテンシァル系を考察する。この系は、分光学的にも興味が持たれている凝縮相中のプロトン移動異性化反応を記述するモデルである。系と熱浴の相互作用としては、散逸(縦緩和と横緩和)を引き起こす従来の線形-線形結合だけでなく、周波数揺動による純粋位相緩和を誘起する非線形-線形結合をも考慮する。このような系に対して、久保の確率過程的Liouville方程式を拡張したGauss-Markov量子Fokker-Planck方程式を解き、双極子μ(Q^^^)の四体相関関数で定義される二次元赤外シグナルを計算した。その結果、入射レーザーパルスの位相整合条件で決まる特定の方向で観測される二次元赤外シグナルの非対角ピークから、トンネル分裂準位間の熱的励起・緩和過程が分離されて観測できることが示される。トンネル分裂準位という真に量子的な系に対する凝縮相の散逸効果を視覚的に捕らえることができるのである。また、従来の実験技術では測定が困難であった凝縮相中のプロトン移動反応の速度定数が、二次元赤外スペクトルからは簡単に評価できる可能性が示される。多次元振動分光法は、凝縮相化学反応の速度定数を測定する新しい技術であると言えよう。