ホワイトノイズ超関数と量子確率微分方程式(第4回『非平衡系の統計物理』シンポジウム,研究会報告)
伸明 尾畑
l は じめ に 決定論 的 な物理系が通常の微分方程式で記述 されるのに対 して,ランダムな揺 らぎを含む 物理系 には確 率微分方程式が用いられる.確率微分方程式論が数学 の一分野 として登場 した のは比較的新 しく 1 9 4 0年代 のことであ り, 伊藤清の業績 にちなんで 「 伊藤解析」 とも呼ば れている.伊藤解析は 1 9 7 0年代には無限変数の超関数のアイデア と融合 し, 現在では 「 確率 解析」 として無限次元解析 の理論的興味か ら諸科学に現れるラ ンダム現象の解析 といった応 用面 にわた り, 広 く研究 され大いに発展 して きている.その中にあって,量子系への応用 とい う点はやや遅 れて, 1 9 8 0年頃か ら伊藤解析の量子版 としての量子確率微分方程式の数学的基 礎づけが研 究 され今 日に至 っている.古典論の場合を振 り返れば, 量子確率微分方程式 を超 関数論的に取 り扱 うこ との実効性が予想 される.この論文では, 数年前か ら著者が展 開 して いるホワイ トノイズ超 関数論 によるアプ ローチを紹介するとともに, 特 に, 量子確率微分方 程式の解の存在 と構成 について論ず る. まず, 簡単 な L a n g e v i n方程式の例 を通 してホワイ トノイズ超 関数論の基本的なア イデア を説明 しよう.速度V-V ( i )の粒子 ( 質量 は 1とする) が粘性抵抗 ( 抵抗係数 k>0 ) のある 媒質の中を外 力 f-I ( i )を受けなが ら運動する系 は Ne w t o n方程式 霊 ニーk v ・J , v l t = 。 -v o , ( 1 ・ 1 ) で記述 される.ここで, 外力 は位置には無関係だが, 時間 とともに変化 して も良い としている.今, i -I ( t )が ( 例 えば) 連続関数であれば, ( 1 . 1 ) は容易 に解けて, V ( i )e 一 如 vo + e -ki l t e kS f ( S ) ds ( 1 ・ 2 ) となる. で は,外力 に揺 らぎのある場合 は どうなるだろうか.この場合 は,各時刻 tで発 生す る外力 f ( i )はある確率分布に従 う確率変数 と考 えられる・( 一般 に, 時間パ ラメー タ付 きの確率変数 は確率過程 と呼ばれる・ ) はっきりさせ るために,確率空 間 ( a, P ) を導入 し, I: R十 × a-I ( i , W )∈R と表示 しよう・たとえ Fが確率過程であって も, 各サ ンプル U∈D に対 して I -I ( 壬 , W )が連続関数であれば, ( 1 .2 ) は定義 され, 解 V ( i ) -V ( t , W)は確率過程 と して得 られ る.確率変数 の基本的な特性量 は平均 と分散である.簡単のため,外力の平均値 -研究会報告 E( I ( i ) )-0を仮定 しよう.このとき, 確率過程 V ( i )の平均 と分散 は, ( 1 .2 ) か ら容易 に求め られ, E ( V ( i ) )e -k t v o ・e -k t lt e h .E( I ( S ) ) d s -e -k t v o ( 1 ・ 3 ) V( V ( i ) ) 千e -2 h〃 e k ' r ' 3 ' E( I ( r ) I ( S ) ) d r d s ( 1 ・ 4 ) となる・分散が ラ ンダムカ f ( i )の時間相関関数 E( I ( r ) I ( S ) )で与 え られることに注意 して お く.時間相 関関数が E ( i ( r ) I ( S ) ) -6 ( r -S )( 1 .5 )o Ie 一 如/ .I e h B d B. のような 「 伊藤型確率積分」で与えられるのである.1 9 7 0年代 になると, 確率微分方程式 に 対す る超関数的アプ ローチが現れて きた.超関数論 によってデ ルタ関数が正当化 され, 微分 方程式論 に大 きな変革が現れたが, 同 じようなことは確率解析 にも期待で きる.Ma l l i a v in解 析 【 2 2 1 や飛 田解析がその代表的なものである・特 に, 飛田解析 は 「 ホワイ トノイズ解析」 と も呼ばれ, 一旦 は d B tとして姿 を消 して しまったホワイトノイズ をあか らさまに数学的対象 「 第 4回 『 非平衡系の統計物理』 シンポジウム」 として捉 える理論である1.これについては,次節以降で詳述するが Ga u s s空間上の超関数空 間 ( E ) 'を導入す ることによって, ホワイトノイズ w t を ( E ) +内の C∞一 級 f l o w として取 り 扱 うことがで きる.そ うす ると, ( 1 .7 ) は再び d v ---k v+ Wt d i と書かれる・形 は もとの ( 1 . 1 )と同一であるが, 解 V-V ( i ) は ( E ) •の中で求めることになる.考 える空間は ( E ) ' の ように無限次元空間になって しまったが, 方程式その ものに特異性は な く, 普通の微積分の規則で解 を求めることがで き, V ( i ) -ek t v o ・e -kl / .ie k s w Sd s となる・これ は, 考 えている空間は違 うのであるが, ( 1 ・ 2 )と形は全 く同 じである.ここで述べて きた ものは簡単 な一例であるが, ホワイ トノイズ解析 によって従来 の形式的計算 に数学的 裏付け を与 え, 揺 らぎの本質 を直に捉 えることがで きるようになった.一方で,1 9 6 0年頃か ら散逸量子系の解析 において量子 L a n g e 血 方程式が議論 されて き た ( L a x[ 2 0 】 , S e n i t z k yl 3 6 】な ど・なお Ac c a r d il 1 】も参照) .それを量子伊藤理論 を定式化 し てユニタリ拡張の問題 として捉 えたのが Hu d s o n -P a r t h a s a r a t h yl 1 6 】であ り, その理論 の後, 若干の超 関数 のアイデア も取 り入れなが ら大いに発展 して今 日に至 っている.最近出版され た教科書 Me y e rl 2 1 1 , P a r t h a s a r a t h yl 3 2 ]はこの方面の必携書 となっている.まず,B r o wn遠 動 を定義す る確率空間 と L 2( A ) 上の B o s o nF o c k空間 ( R が B r o w n 運動 の時間パ ラメータ を与 える)が 同型 になる ( Wi e n e r Jt 6 -S e g a l 同型) .すると Bt をその B o s o nF o c k空間上の かけ算作用素 とみなす ことがで き, Bt -At + A t e の ように,さらに 「 素」な 2つの量子確率過程 に分解す ることがわか る.At , A言はそれぞれ 消滅過程, 生成過程 と呼ばれている.Hu d s o n -P a r t h a s a r a t h y -Me y e r理論 は, それ らの無限小 増分 d At , d AI , 及びゲージ過程の無限小増分 d Atに基づ く伊藤解析 の量子版 とで も言 うべ き ものである.生成・ 消滅過程 によって, 第 3の量子確率過程 tを表す ことは, 彼 らの量子確 率積分で許 される被積分関数の範囲ではで きないが, 応用上極めて重要であるので独立 につ け加 えられている.この ような流れを眺めれば, ホワイトノイズ解析の量子版 を建設 し, 応用面 を探 るのは興 味のあることと言 えよう.このアプローチの一つの特徴 は, デルタ関数 を掌中にす る超関数 論 を基礎 に しているので,「 素」となるべ き量子 ノイズは a , , a t 'の 2つで十分であるとい う ことである・実際, " すべて" の量子確率過程 を a tと a t 'に関する " 量子確率積分" で表現する ことがで きる2.また,このことは, すべての作用素が生成 ・ 消滅作用素で表現で きる とい う 場の理論 における直感 にもあっている3.こうして,我々の立場 を図示 すれば次の ようになる. 1 飛 田 【 1 2 】に興味深い解説記事がある.2ここで … をつけたのは, 数学 として表現するのだか らむろん一定の枠 をはめた り, 概念 を一般化 した りし た上で,との意味.詳しくは本文 § 4を参照されたい.3このこ とを証明す るためには," すべての作用素"に対 して枠 をはめなければな らない.有界作用素に対 し ては B e r e z i n【 3 1 , G e l f a ndt r i p l e tに付随 したものは O b a t a【 2 3 1で証明された・なお, § 3も参照せ よ・ 研究会報告 古典確 率解析 d B t -d A t +d Al ' d Bt -Wt d l Wt-a t +a i ' 量子確率解析 Hu d s o n -P a r t h a r a r a t h y -Me y e r理論 d At , d At ' , d d t d d t -a t d t 量子ホワイ トノイズ解析 ( 提案中) a i ) a t + この論文 では,ホワイ トノイズ起関数論 ( WNDT)を簡単 に紹介 した後, 量子確率過程が どのように して素過程である a ., a t 'で表現 されるかを説明す る・その後, 作用素の Wi c k積 を導入 し, 量子確率微分方程式の解の構成 に応用する.ホワイトノイズ超関数論 については, 最近出版 され た Ku o【 1 9 】は極めて丁寧 に書かれてお り,この方面への格好の入門書である・ また,この論文 ではホワイ トノイズ空間上の作用素論が基礎 になっているが,これ について は Ob a t a【 2 3 】を参照 されたい.量子ホワイ トノイズ解析 については, 本 はまだないが, Ob a t a l 2 7 日 2 8 日 2 9 】に多少 まとまった記述がある・関連す るもの として, Hu a n g【 1 3 】 , Hu a n g -L u o l 1 4 ] , Ob a t al 2 5 】 , 大矢-, ) 、 鴫 [ 3 1 ] なども参照 されたい・ここで展開す る理論 は物理では絶対零 度 の場合 に対応 し, 有限温度の場合 に拡張す ることは極めて興味深い問題 となる.この観点 か ら Hu d s o n -L i n d s a yl 1 5 】 や有光グループ による研究 【 2 日 3 4 】は重要な指針 を与 えるもので ある. 2 ホワイ トノイズ超関数論 2 . 1 Br o wn運動か らホワイ トノイズへ 水 中の花粉粒子のジグザグ運動は, 数学的には確率過程 として定式化 されている.確率変数の 1径数族 f Bt ) t ≧ 。で ( i ) ( B t )は Ga u s s 系, つ まり任意の有限 1 次結合 c I B i l +・-+ c n Bt nが Ga u sS 分布 に従 う; ( i i ) B 0-0 ,E ( B , )-0 ,E ( B s B t ) -mi n ( S , l l ; を満たす もの を B r o wn運動 または Wi e n e r 過程 と呼ぶ.ここでは, 無 限次元 Ga u s s 測度 を 用いて B r o vn運動 を構成す る. 他の方法 については, 【 1 1 日 1 7 】な どを参照 されたい.実 Hi l b e r t空間 H-L 2 ( I R , d i ) の実内積 とノルムを ( i , 7 ) -/ R E ( i ) 7 ( i ) d l , I 引。 -( i , i ) , E , 7 7 ∈H, によって定義す る.( ここで,ノルムの添字 Oは後で便利 なようにつけた・ )有限次元 E u c l i d 空間な らば, Bo c h n e rの定理 によって確率測度 と正定借関数が 1 対 1対応するが, 無限次元 空 間に対 して は Ge l f a n dt r i p l e tを用いなければならない 【 3 8 1 ・さて,無 限回微分可能 な急 減少関数の全 体 を E -S( A) ,その双対空間,つま り E 上の連続線形 ( 帆)関数4 の全体 を 4 E -S( A)の標準的な位相 は,ノルムの系列 = f J L ・ , A-S u p t e Rl t 3
物性研究•Oct 20, 1997•0 citations